目覚めと共に感じたのは、奇妙な静寂だった。
熱は引き、体は羽毛のように軽いが、心の奥底には鉛のような重りが沈殿している。
「テストを放棄した」という事実は、夢の中でも私を苛み続けた。
完璧であることだけが、私がこの世に存在することを許される唯一の条件だというのに。
私はその契約を破棄してしまったのだ。
「……お嬢様。お目覚めですか」
ロキナの声がした。
いつもなら、彼女の声は穏やかな春の日差しのように私を包み込む。
だが今は、抑えきれない興奮と、微かな震えを帯びていた。
「……ええ。おはよう、ロキナ」
体を起こそうとして、ロキナが勢いよく寝台の傍らに跪くのを見て動きを止めた。
彼女の手には、一枚の羊皮紙が握りしめられている。
王家の紋章が押された、公式の通知書。
「お嬢様……!信じられません、いえ、信じておりましたが……!」
ロキナの瞳が潤んでいる。
悲しみではない。
これは――歓喜の涙だ。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「ご覧くださいませ!先ほど、学院から成績の速報が届きました!」
ロキナは震える手で、羊皮紙を私に差し出した。
見るのが怖い。
自分の無様さが、数字として刻印されているのを確認することなど。
けれど、ロキナの熱量に押され、私は恐る恐る視線を落とした。
『第二位:リリス・タロシア』
呼吸が止まった。
文字が意味を持つ記号として脳に届くまで、数秒を要した。
「……二位?」
掠れた声が漏れる。
「はい!二位です!お嬢様は、途中退出されたにも関わらず、並み居る優秀な生徒たちを抑えて、堂々の二位を獲得されたのです!」
ロキナが私の手を握りしめ、上下に振る。
「一位はカシリア殿下……それは当然のことですわ。あの方は王族、受けてきた教育の質が違いますもの。ですが、リリス様はその殿下に次ぐ順位……!しかも、回答した箇所はすべて満点だったと、添え書きにございます!」
脳髄に電流が走ったような衝撃。
満点。
すべて正解。
途中までの回答だけで、他の生徒たちの総得点を上回ったというのか。
じわりと、胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。
安堵。
歓喜。
そして、強烈な自負。
私は失敗していなかった。
あの極限状態の中で、私は「リリス」としての務めを果たしていたのだ。
「……そう、なのね」
震える指で羊皮紙をなぞる。
これなら。
これなら、父上も私を認めてくださるはずだ。
『よくやった』と、あの日と同じように、頭を撫でてくださるかもしれない。
「殿下が、わざわざ国王陛下主催の祝賀会を開かれた理由が分かりましたわ」
ロキナが目を輝かせて言う。
「これは、リリス様の快挙を称えるためでもあらせられるのです!病を押してこれほどの成績を残したリリス様を、殿下は公の場で労おうとしてくださっているのですよ!」
その言葉は、甘美な毒のように私の心に染み渡った。
カシリア殿下が、私のために?
あんなに冷淡だった殿下が、私の努力を認めてくださった?
……あり得ない話ではない。
殿下は公正な方だ。
私の実力を正当に評価し、その功績を称えようとしてくださっているのだとしたら。
あの冷たい態度は、私を試していただけだったのかもしれない。
そうだ、きっとそうだわ。
どん底から急浮上した希望は、私の理性を麻痺させ、都合の良い解釈へと導いていく。
「……急ぎましょう、ロキナ」
私は寝台から飛び降りた。
「パーティーはもう始まっているわ。……父上も、殿下も、私を待っていらっしゃるはずよ」
「はい、お嬢様!今すぐ最高のお支度を!」
熱は引き、体は羽毛のように軽いが、心の奥底には鉛のような重りが沈殿している。
「テストを放棄した」という事実は、夢の中でも私を苛み続けた。
完璧であることだけが、私がこの世に存在することを許される唯一の条件だというのに。
私はその契約を破棄してしまったのだ。
「……お嬢様。お目覚めですか」
ロキナの声がした。
いつもなら、彼女の声は穏やかな春の日差しのように私を包み込む。
だが今は、抑えきれない興奮と、微かな震えを帯びていた。
「……ええ。おはよう、ロキナ」
体を起こそうとして、ロキナが勢いよく寝台の傍らに跪くのを見て動きを止めた。
彼女の手には、一枚の羊皮紙が握りしめられている。
王家の紋章が押された、公式の通知書。
「お嬢様……!信じられません、いえ、信じておりましたが……!」
ロキナの瞳が潤んでいる。
悲しみではない。
これは――歓喜の涙だ。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「ご覧くださいませ!先ほど、学院から成績の速報が届きました!」
ロキナは震える手で、羊皮紙を私に差し出した。
見るのが怖い。
自分の無様さが、数字として刻印されているのを確認することなど。
けれど、ロキナの熱量に押され、私は恐る恐る視線を落とした。
『第二位:リリス・タロシア』
呼吸が止まった。
文字が意味を持つ記号として脳に届くまで、数秒を要した。
「……二位?」
掠れた声が漏れる。
「はい!二位です!お嬢様は、途中退出されたにも関わらず、並み居る優秀な生徒たちを抑えて、堂々の二位を獲得されたのです!」
ロキナが私の手を握りしめ、上下に振る。
「一位はカシリア殿下……それは当然のことですわ。あの方は王族、受けてきた教育の質が違いますもの。ですが、リリス様はその殿下に次ぐ順位……!しかも、回答した箇所はすべて満点だったと、添え書きにございます!」
脳髄に電流が走ったような衝撃。
満点。
すべて正解。
途中までの回答だけで、他の生徒たちの総得点を上回ったというのか。
じわりと、胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。
安堵。
歓喜。
そして、強烈な自負。
私は失敗していなかった。
あの極限状態の中で、私は「リリス」としての務めを果たしていたのだ。
「……そう、なのね」
震える指で羊皮紙をなぞる。
これなら。
これなら、父上も私を認めてくださるはずだ。
『よくやった』と、あの日と同じように、頭を撫でてくださるかもしれない。
「殿下が、わざわざ国王陛下主催の祝賀会を開かれた理由が分かりましたわ」
ロキナが目を輝かせて言う。
「これは、リリス様の快挙を称えるためでもあらせられるのです!病を押してこれほどの成績を残したリリス様を、殿下は公の場で労おうとしてくださっているのですよ!」
その言葉は、甘美な毒のように私の心に染み渡った。
カシリア殿下が、私のために?
あんなに冷淡だった殿下が、私の努力を認めてくださった?
……あり得ない話ではない。
殿下は公正な方だ。
私の実力を正当に評価し、その功績を称えようとしてくださっているのだとしたら。
あの冷たい態度は、私を試していただけだったのかもしれない。
そうだ、きっとそうだわ。
どん底から急浮上した希望は、私の理性を麻痺させ、都合の良い解釈へと導いていく。
「……急ぎましょう、ロキナ」
私は寝台から飛び降りた。
「パーティーはもう始まっているわ。……父上も、殿下も、私を待っていらっしゃるはずよ」
「はい、お嬢様!今すぐ最高のお支度を!」
