活発で愛らしい彼女が、家に帰ったあとどんな叱責を受けるのか想像すると、カシリアは少しだけ胸が痛んだ。
「まあまあ、ご婦人。彼女はオレが誰か分からなかったのだから、あの態度も無理はない。それに、オレも久しぶりにあんなに笑わせてもらった。実に愉快なお嬢様だ」
それは社交辞令ではなかった。
人の心を自然と明るくする、不思議な力を持った少女だと本気で感じていた。
「ところで……あなたは?」
「わ、わ、わ、わたくしは、ミカレンと申します、殿下……」
夫人は緊張のあまり言葉がもつれ、それ以上うまく話せなかった。
「ご家族は? その服装は明らかに平民のものではないし、ここは平民が自由に立ち入れる場所でもない。それに――」
カシリアは視線を向けながら続ける。
「その所作を見れば分かる。幼い頃から礼法を叩き込まれてきた人間の動きだ」
そう、それは長年、貴族として生きてきた者だけが自然に身につける優雅さだった。
数ヶ月の付け焼き刃でどうにかなるものではない。
幼少期からの生活習慣そのものだ。
つまり、この夫人は間違いなく貴族の出身である。
「……で、どの家のご出身かな?」
「……誠に申し訳ございません、殿下。その件につきましては、数日後に改めてご説明いたします」
何か言いかけたが、結局それ以上は口にしなかった。
――数日後、か。
エリナと呼ばれた娘も、先ほど「自分は貴族になる」と口にしていた。
つまり彼女たちは、近いうちにどこかの名門貴族の家へ迎え入れられるのだろうか。
まあ、いい。
【この二人の純粋無垢な様子を見る限り、どの家に入ろうとも、致命的な混乱を招くことはないだろう。】
「分かった。では、君が貴族になったら、すぐ知らせに来てくれ」
カシリアは笑みを浮かべ、エリナに向かって言った。
「いいぜ! ほら、約束だ。指切りしよう!」
彼女の笑顔は夜空の月のように柔らかく輝き、人の心を不思議と温め、落ち着かせる。
「……子供じゃないんだが」
口ではそう言いながらも、結局カシリアはその無邪気さに逆らえず、苦笑しつつ小指を差し出した。
「これはね――」
彼女は急に真面目な顔になり、
【「我が一族に代々伝わってる、約束のやり方なんだよ」】
そう言って、どこか誇らしげに指を絡めた。
気がつけば、カーテンの開いたバルコニーで、知り合って間もない少女とずいぶん長く話し込んでいた。
幸い、他の貴族令嬢たちにはまだ気づかれていないようだった。
そう思いながらホールへ戻ると、ひそひそとした女たちの声が耳に入った。
「そういえば……さっきのリリス様、少し様子がおかしくなかった? なんだか怖い顔をしてたわ」
「そうね。でもリリス様は、ずっと病で伏せていたでしょう? まだ体調が戻っていないのかもしれないわね」
「まあまあ、ご婦人。彼女はオレが誰か分からなかったのだから、あの態度も無理はない。それに、オレも久しぶりにあんなに笑わせてもらった。実に愉快なお嬢様だ」
それは社交辞令ではなかった。
人の心を自然と明るくする、不思議な力を持った少女だと本気で感じていた。
「ところで……あなたは?」
「わ、わ、わ、わたくしは、ミカレンと申します、殿下……」
夫人は緊張のあまり言葉がもつれ、それ以上うまく話せなかった。
「ご家族は? その服装は明らかに平民のものではないし、ここは平民が自由に立ち入れる場所でもない。それに――」
カシリアは視線を向けながら続ける。
「その所作を見れば分かる。幼い頃から礼法を叩き込まれてきた人間の動きだ」
そう、それは長年、貴族として生きてきた者だけが自然に身につける優雅さだった。
数ヶ月の付け焼き刃でどうにかなるものではない。
幼少期からの生活習慣そのものだ。
つまり、この夫人は間違いなく貴族の出身である。
「……で、どの家のご出身かな?」
「……誠に申し訳ございません、殿下。その件につきましては、数日後に改めてご説明いたします」
何か言いかけたが、結局それ以上は口にしなかった。
――数日後、か。
エリナと呼ばれた娘も、先ほど「自分は貴族になる」と口にしていた。
つまり彼女たちは、近いうちにどこかの名門貴族の家へ迎え入れられるのだろうか。
まあ、いい。
【この二人の純粋無垢な様子を見る限り、どの家に入ろうとも、致命的な混乱を招くことはないだろう。】
「分かった。では、君が貴族になったら、すぐ知らせに来てくれ」
カシリアは笑みを浮かべ、エリナに向かって言った。
「いいぜ! ほら、約束だ。指切りしよう!」
彼女の笑顔は夜空の月のように柔らかく輝き、人の心を不思議と温め、落ち着かせる。
「……子供じゃないんだが」
口ではそう言いながらも、結局カシリアはその無邪気さに逆らえず、苦笑しつつ小指を差し出した。
「これはね――」
彼女は急に真面目な顔になり、
【「我が一族に代々伝わってる、約束のやり方なんだよ」】
そう言って、どこか誇らしげに指を絡めた。
気がつけば、カーテンの開いたバルコニーで、知り合って間もない少女とずいぶん長く話し込んでいた。
幸い、他の貴族令嬢たちにはまだ気づかれていないようだった。
そう思いながらホールへ戻ると、ひそひそとした女たちの声が耳に入った。
「そういえば……さっきのリリス様、少し様子がおかしくなかった? なんだか怖い顔をしてたわ」
「そうね。でもリリス様は、ずっと病で伏せていたでしょう? まだ体調が戻っていないのかもしれないわね」
