罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

カシリア様のお部屋。

ここは私達だけのお城。

誰の目も、ルールも、道徳でさえも届かない、甘くてとろけそうな密室。

私はカシリア様が用意してくださった服に着替えた。

肌触りのいいリネンのシャツ。

元はカシリア様のものだというそれは、私にはすごく大きくて、袖を通すと指先まですっぽりと隠れてしまう。

裾は太ももの真ん中くらいまであって、まるでドレスみたいだけれど、下には何も着ていない心細さが、逆に肌を敏感にさせる。

鏡の前に立ってみる。

そこに映る女の子からは、前みたいな悲壮な覚悟も、ピリピリした緊張感もすっかり消えていた。

ただ、穏やかで、少し恥ずかしそうで……そして、幸せいっぱいの顔をしていた。

自分のほっぺたに触れてみる。

指先から伝わってくる温かさは、生きている証拠だ。

お父様に抱きしめてもらい、お姉様に謝ってもらい、お母様にお別れを言った。

氷みたいにカチコチに凍っていた私の時間は、カシリア様という太陽と、家族という焚き火の温かさで溶かされて、また動き出したのだ。

ふわりと、鼻をくすぐるいい香り。

シャツから、カシリア様の匂いがする。

清潔な石鹸と、かすかなタバコ、そして男の人特有の力強い香りが混ざり合って、私の頭の中を甘くしびれさせる。

あぁ……カシリア様……

会いたい。

今すぐに、このあふれそうなほどの感謝と愛を伝えたい。

そう思った瞬間、後ろでドアが開く音がした。

「リリス……」

振り返ると、そこにはお仕事を終えたばかりのカシリア様が立っていた。

堅苦しい王太子の礼服をラフに着崩して、ネクタイをゆるめた姿。

その瞳が、私を見てピタリと止まる。

私は小走りで駆け寄って、彼の胸に飛び込んだ。

「おかえりなさいませ、カシリア様!」

ドン、と胸板にぶつかった。

私は顔を上げて、とびきりの笑顔を向けた。

計算も、お世辞も、演技もなにもない。

ただ純粋に、彼に会えた嬉しさだけを形にした、お花が咲くような笑顔。

「ふふ、このシャツ……やっぱり大きすぎますね。なんだか、子供みたいです」

私は長い袖を振ってみせた。

カシリア様は何も言わない。

ただ、熱っぽい視線で私の顔を、首すじを、そしてシャツの裾からのぞく素足を見つめている。

その瞳の奥で、何かが揺れて、ガラガラと崩れ落ちていくのがわかった。

「……リリス」

低くて、かすれた声。

カシリア様の腕が、私の腰にギュッと回される。

絶対に逃がさないと言うみたいに、強くて、きつく。

「お前は……本当に……」

彼は言葉を続けることができなかったのか、それとも言葉なんていらないと思ったのか。

そのまま顔を近づけて、私の唇をふさいだ。

「んっ……!」

挨拶がわりの軽いキスじゃない。

むさぼるような、喉の渇きを癒やすような、激しいキス。

カシリア様の舌が私のお口の中をかき回し、唾液を絡め取って、息を奪っていく。

私は背伸びをして、彼の首に腕を回してしがみついた。

シャツ越しに伝わってくる彼の手の熱さが、私の肌を焦がしそうなくらい熱い。

腰をなで上げられ、太ももを触られて、私は気持ちよさに声を漏らしてしまう。

「はぁ……っ、カシリア、さま……っ」

唇が離れると、銀色の糸がすーっと引いた。

カシリア様は荒い息を吐きながら、私の耳元に顔を埋めて、首すじに吸い付いた。

「……我慢、できない」

甘いささやきと一緒に、チクリと鋭い痛みが走る。

彼が私の肌に軽く歯を立てて、自分のものだという印をつけているのだ。

カシリア様の手が、シャツのボタンにかかる。

一つ、また一つと外されていくたびに、私の肌があらわになって、ひんやりとした空気に触れる。

けれど、すぐに彼の手のひらの熱さが、それをすっぽり覆い隠してくれる。

「お前が他の男……たとえ父親だとしても、他の誰かに心を向けている時間なんて、一秒たりとも惜しい」

「あっ……!」

シャツが肩からすべり落ちて、私は半裸の状態で彼にギュッと抱きすくめられた。

胸の先が彼の硬い服にこすれて、甘いしびれが全身を駆けめぐる。

「お前はオレのものだ。……髪の一本、吐息の一つまで」

カシリア様の瞳は、強い欲求と独占欲でとろけるように濁っていた。

それは怖いくらいの執着だったけれど、今の私には、それこそが最高のご褒美だった。

この人は、私の全部を欲しがってくれている。

傷ついた過去も、嫌な秘密も、全部まるごと受け止めて、愛してくれている。

「はい……カシリア様……」

私は彼のほっぺたに手を添えて、熱でうるんだ瞳で見つめ返した。

「私はあなたのものです。……心も、身体も、この命でさえも」

「リリス……!」

カシリア様はうなるように私の名前を呼んで、私をひょいっと抱き上げた。

視界がぐるんと回って、次の瞬間にはフカフカの寝台の上に押し倒されていた。

覆いかぶさってくる彼の影。

その向こうに見える天蓋の飾りが、涙でにじんでゆらゆら揺れる。

「愛しています……カシリア様……」

「オレもだ。……愛している、リリス」

私は目を閉じて、彼がくれる気持ちよさと幸せの波に、喜んで身を委ねた。