罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

荒い息遣いだけが響く部屋の中で、激しい感情の波はすーっと引いていった。

床に散らばった絨毯の毛羽立ちと、ひっくり返った椅子が、さっきまでの子供みたいな大げんかの激しさを物語っている。

コリンダは仰向けのまま、ズキズキ痛む鼻を押さえて、天井の豪華なシャンデリアを睨みつけた。

隣で大の字になっている女、エリナ・タロシアからの反応がなくなってから、ずいぶん経つ。

さっきまでは「石頭」「野蛮人」とギャーギャー騒いでいた口が、不自然なくらい静まり返っている。

コリンダは眉をひそめて、首だけを横に向けた。

「……おい、生きてるか? まさか気絶したわけじゃ……」

言葉は途中で消えてしまった。

そこに広がっていたのは、予想もしない光景だった。

エリナは死んでもいなければ、気絶してもいなかった。

ただ、ぐっすりと、泥のように眠っていた。

少し開いた唇からは、規則正しい寝息が漏れている。

金の髪は鳥の巣みたいにボサボサで、豪快に頭突きをかましたおでこは赤く腫れ上がり、服の裾はめくれて無防備なお腹が見え隠れしている。

公爵令嬢という肩書きが泣いて逃げ出しそうな、あまりにガサツで隙だらけの寝姿。

コリンダはあっけにとられて、口を半開きにしたまま彼女を見つめた。

数秒じっとした後、乾いた笑いが喉の奥から漏れ出た。

「……はっ。マジかよ、こいつ」

ついさっきまで取っ組み合いの喧嘩をしていた男の横で、武器も放り出し、意識も手放して、こんなに無防備にお腹を晒すなんて。

警戒心がないのか、それともコリンダという男を、無意識に安全な存在だと思っているのか。

どちらにしても、呆れるくらいの大物だ。

コリンダは痛む体を起こし、あぐらをかいてエリナの顔を覗き込んだ。

夕暮れのオレンジ色の光が、彼女の顔に長い影を落としている。

起きている時はいつも吊り上がっている眉が、今は穏やかに下がり、長い睫毛が頬に影を作っているのを見ると、不思議と幼く見えた。

最近、彼女はずっと気を張っていたのだろう。

その緊張の糸が、リリスとの仲直りと、コリンダとの喧嘩でプツリと切れて、溜まっていた疲れが一気に押し寄せたに違いない。

「……ったく。世話の焼ける女だ」

コリンダは呟きながら、不思議な感覚を覚えていた。

本当なら、彼の好みはもっとおしとやかで、素直で色気のある女だったはずだ。

こんな、色気も何もない、筋肉質で石頭の暴力女なんて、ごめんだったはずなのに。

なのに、どうしてだ。

この無防備な寝顔を見ていると、胸の奥が妙にホッとするのだ。

戦場で背中を預けられる戦友への信頼感だろうか。

それとも、手のかかる猛獣を手懐けた時みたいな征服欲だろうか。

いや、違う。

もっと根本的な、波長の合う相手を見つけた時の安心感だ。

彼女のまっすぐな感情表現も、飾らない言葉も、そして家族のためなら鬼になれる情の深さも、すべてがコリンダにとっては心地よかった。

コリンダは近くに落ちていた自分の上着を拾い上げ、ポンポンと埃を払うと、ポンとエリナの体にかけてやった。

「ん……ぅ……」

エリナが小さくうめいて、上着を無意識にギュッと掴んで丸まった。

そのしぐさに、コリンダの口元が自然とゆるむ。

「……野蛮で、ガサツで、石頭で。……おまけに寝相まで悪い」

彼は指先で、エリナの腫れたおでこをそっとつついた。

「だが……悪くねえ」

帝国に戻れば、ドロドロの駆け引きが渦巻く、冷酷な宮廷生活が待っている。

「覚悟しとけよ、エリナ。……オレは婿になるんだぞ。これくらいの借りは、一生かけて返してもらうからな」

返事の代わりに、エリナはグゥと豪快な寝息を鳴らした。

コリンダは肩をすくめ、苦笑いをこらえながら、窓の外に沈んでいく太陽を見つめた。

その横顔には、かつてのワガママな王子の面影はなく、一人の男としての静かな決意と、ほんのりとした幸せの色がにじんでいた。