再び瞼を持ち上げると、すでに翌朝の光が満ちていた。
カロリン医師の姿はなく、ただ彼女が残してくれた食事と、ロキナ、そして殿下のメイドたちが静かに控えているだけだった。
「カロリン様は、もうお薬を使われたとのことです。今日と明日の二日間、深くお休みになれば、すぐに良くなられるそうで……」
身を起こした私に気づき、ロキナがそう教えてくれる。
今回もまた、薬を飲んだ記憶は抜け落ちていた。
代わりに、腕には注射の跡が痛々しく増えている。
やはり、今回も針を使ったのね。
身体の奥で何かが噛み合わないような奇妙な感覚。
けれど、具体的に何をされたのかまでは、霧がかかったように分からない。
この様子では、成績が出るあの日まで、私はずっと微睡みの中に閉じ込められることになるのかしら。
胸の奥に、さざ波のような不安が広がる。
そういえば、父上の姿が見当たらない。
きっと、エリナやミカレンと一緒にいるのね。
前世で成績が発表されたあの日。
それは、父上が初めてあの二人を屋敷へ連れてきた日でもあった。
その日、私は父上との関係を、修復不可能なほどに引き裂かれた。
けれど今回、私は学院で倒れてしまった。
父上は、前世をなぞるように二人を連れて来るのだろうか。
……いいえ、きっとそんなことはしないはず。
だって父上は、とても優しい人だもの。
病に伏せっている娘に対して、そんな残酷な仕打ちをするはずがない。
前世であのタイミングを選んだのは、私がテストで一位を取り、浮き足立っている隙ならば、彼女たちを受け入れるだろう……そんな甘い期待があったからに過ぎないのだから。
「お嬢様? お嬢様、お食事を……少しでも召し上がってください」
思考の海に沈みかけていた私を、ロキナの声が引き戻す。
このまま独りで考えを巡らせても、闇が深くなるだけ。
一度、考えるのは手放しましょう。
今日は、とりわけ穏やかで、守られた一日になるかもしれない。
多くのメイドたちが四六時中傅かしずいてくれるし、何よりロキナが傍にいてくれる。
病で身体が弱っているせいだろうか、心はやけに凪いでいた。
やっと、糸が切れたように休めるのね。
【それに、カシリア殿下も何らかのお仕事で、ずっとここには戻られていないようだし。】
この広すぎる王家休憩室は今、主を欠いたまま、まるでリリスのためだけの寝室になり果てていた。
夕闇が迫る頃になって、ようやく父上が戻ってきた。
「どうだいリリス、体調の方は」
「殿下のおかげで、だいぶ楽になりました。明日には、完治するかと思います」
「なるほど……」
少しの他愛ない言葉を交わした後、父上は不意にその話題を切り出した。
「ところで、明日の夕方……国王陛下が、学院の全生徒とその家族に向けた、成績発表祝賀会を催されるそうだ。どうだ? 参加するか。もちろん、体が辛いなら無理に行く必要はないが」
父は私の体を気遣い、予め「行かなくても良い」という逃げ道を用意してくれたようだった。
カロリン医師の姿はなく、ただ彼女が残してくれた食事と、ロキナ、そして殿下のメイドたちが静かに控えているだけだった。
「カロリン様は、もうお薬を使われたとのことです。今日と明日の二日間、深くお休みになれば、すぐに良くなられるそうで……」
身を起こした私に気づき、ロキナがそう教えてくれる。
今回もまた、薬を飲んだ記憶は抜け落ちていた。
代わりに、腕には注射の跡が痛々しく増えている。
やはり、今回も針を使ったのね。
身体の奥で何かが噛み合わないような奇妙な感覚。
けれど、具体的に何をされたのかまでは、霧がかかったように分からない。
この様子では、成績が出るあの日まで、私はずっと微睡みの中に閉じ込められることになるのかしら。
胸の奥に、さざ波のような不安が広がる。
そういえば、父上の姿が見当たらない。
きっと、エリナやミカレンと一緒にいるのね。
前世で成績が発表されたあの日。
それは、父上が初めてあの二人を屋敷へ連れてきた日でもあった。
その日、私は父上との関係を、修復不可能なほどに引き裂かれた。
けれど今回、私は学院で倒れてしまった。
父上は、前世をなぞるように二人を連れて来るのだろうか。
……いいえ、きっとそんなことはしないはず。
だって父上は、とても優しい人だもの。
病に伏せっている娘に対して、そんな残酷な仕打ちをするはずがない。
前世であのタイミングを選んだのは、私がテストで一位を取り、浮き足立っている隙ならば、彼女たちを受け入れるだろう……そんな甘い期待があったからに過ぎないのだから。
「お嬢様? お嬢様、お食事を……少しでも召し上がってください」
思考の海に沈みかけていた私を、ロキナの声が引き戻す。
このまま独りで考えを巡らせても、闇が深くなるだけ。
一度、考えるのは手放しましょう。
今日は、とりわけ穏やかで、守られた一日になるかもしれない。
多くのメイドたちが四六時中傅かしずいてくれるし、何よりロキナが傍にいてくれる。
病で身体が弱っているせいだろうか、心はやけに凪いでいた。
やっと、糸が切れたように休めるのね。
【それに、カシリア殿下も何らかのお仕事で、ずっとここには戻られていないようだし。】
この広すぎる王家休憩室は今、主を欠いたまま、まるでリリスのためだけの寝室になり果てていた。
夕闇が迫る頃になって、ようやく父上が戻ってきた。
「どうだいリリス、体調の方は」
「殿下のおかげで、だいぶ楽になりました。明日には、完治するかと思います」
「なるほど……」
少しの他愛ない言葉を交わした後、父上は不意にその話題を切り出した。
「ところで、明日の夕方……国王陛下が、学院の全生徒とその家族に向けた、成績発表祝賀会を催されるそうだ。どうだ? 参加するか。もちろん、体が辛いなら無理に行く必要はないが」
父は私の体を気遣い、予め「行かなくても良い」という逃げ道を用意してくれたようだった。
