罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

カシリアは腕の中に収まるリリスの華奢な身体をさらに強く抱き寄せた。

彼女の首には、ミセシル伯爵の太い指が食い込んだ赤黒い痕が残り、破れた肌からは血が滲み出ている。

カシリアはゆっくりと顔を寄せ、彼女の白い肌を汚す痛ましい傷跡に、深く唇を押し当てた。

微かな鉄の味が舌先に伝わってくる。

その痛々しい感触は、彼の奥底にある保護欲と支配欲を同時にかき立てた。

数分前まで、目の前の少女は猛毒を秘めた完璧な微笑みを浮かべ、高位貴族であるミセシル家をたった一人で完全に屈服させてみせた。

その冷徹で残酷な支配者の顔と、今こうして腕の中で浅い息を繰り返し、無防備に身を預けてくる可憐な姿。

そのあまりのギャップが、カシリアの思考を強く麻痺させる。

「……リリス。オレは、君の全てをこの腕の中に閉じ込める」

カシリアの口から、低く呪文のような、絶対的な独占の誓いが漏れ出た。

彼女が抱える狂気も、並外れた政治の才能も、すべては自分が守り、独り占めするのだと彼の心に深く刻み込まれた。

リリスはカシリアの胸の中で何度か深呼吸を繰り返し、息を整えた。

彼女の瞳から薬特有の虚ろな色が引いていき、再び冷徹な理性が宿る。

リリスはカシリアの腕の中でわずかに身をよじり、彼の碧い瞳を真っ直ぐに見つめた。

「殿下。感傷に浸る時間は終わりです。すぐに次の段階へ移らなければなりません」

彼女の声はひどく疲労していたが、その言葉には理路整然とした響きがあった。

「ミセシル伯爵は、自分と一族の身を守るため、今回の武力衝突を『誤解だった』と国王陛下にご報告するでしょう。私たちはその報告を最大限に利用しなければなりません」

リリスは震える指先で桜色の長い髪を払い、言葉を続けた。

「伯爵の報告が王家の公式な記録として受理された瞬間を狙って、父カストとエリナの軟禁をすぐに解くための手続きを始めてください。当事者であるミセシル家が被害を否定する以上、王家がタロシア公爵家を捕らえ続ける正当な理由はなくなりますから」

カシリアは彼女の理にかなった要求を聞き入れ、深く頷いた。

「……わかった。彼らの罪を白紙に戻すための手回しは、オレがすべて引き受けよう」

カシリアはリリスの膝裏と背中に腕を回し、彼女の軽い身体をふわりと抱き上げた。

「あっ……殿下、私は自分で歩けます」

「黙って休んでいろ。君の身体はもう限界を超えているんだ」

カシリアはリリスの小さな抵抗を気にも留めず、彼女を抱きかかえたまま重厚な扉を抜け、専用の療養室へと歩き出した。

療養室の寝台に彼女をそっと寝かせると、カシリアは傍らの水盆で清潔な布を濡らし、リリスの首についた赤黒い痕を丁寧に拭き取った。

冷たい水が傷口に触れ、リリスの身体がビクッと跳ねる。

「少しの我慢だ。すぐに最高の傷薬を用意させる。痕が残ることは絶対に許さない」

カシリアの声には、彼女を傷つけた者への純粋な殺意が込められていた。

彼は手当てを終えると、厚い絹の掛け布団をリリスの胸元まで引き上げた。

「君はここでゆっくり休んでくれ。外からの接触はオレがすべて遮断するから」

リリスは重くなるまぶたを瞬かせながら、小さく頷いた。

カシリアは寝台から離れると、自分の服の乱れを整えた。

彼の顔から穏やかな色が消え、次期国王としての冷酷な表情へと変わっていく。

ミセシル伯爵が父王カナロアへ行うであろう嘘の報告。

それをただ待っているだけでは不安が残る。

伯爵が言葉を翻す前に、あるいは父王が別の意図を挟む前に、政務室の官僚たちを動かして、その報告を取り消せない事実として王国の歴史に刻み込む必要がある。

「オレは政務室へ向かう。タロシア公爵家の無罪放免を、本日中に確定させる」

カシリアは背を向け、療養室の扉へと歩み寄る。