父上には父上の過去があり、未来への希望がある。
私には消えない罪があり、贖罪としての義務がある。
かつて私たち家族は、母上という太陽を中心に強く結ばれていた。
けれど母上が亡くなり、太陽が失われたあの日から、私たちは散りゆく桜のようにバラバラになった。
……いいえ、違う。
その太陽を撃ち落とし、この家を永遠の冬に閉ざしたのは、他ならぬ私自身だ。
だから、私にはもう、自分の幸せを願う資格などない。
今、父上がどれほど優しく私の手を握ってくれていても、それは砂時計の砂のようにこぼれ落ちていく仮初めの時間。
いずれ、あの二人がやってくる。
継母となるミカレンと、義姉となるエリナが。
前世の記憶が、冷たい刃物のように胸を抉る。
私が憎み、父上が愛した二人。
彼女たちがこの屋敷の敷居を跨ぐその時、私だけの父上は奪われる。
この温かい手のひらも、優しい眼差しも、全ては新しい家族へと注がれるようになるだろう。
でも……それでいい。
父上はそれで、再び笑顔を取り戻せるのだから。
父上が幸せになれるのなら、私がその輪から弾き出されたとしても、それが正しい結末なのだ。
私のような罪人が、父上の幸福の邪魔をしてはいけない。
今の私は「公爵令嬢」という役割を全うするだけの人形。
心が軋む音など、笑顔の仮面で隠してしまえばいい。
「……どうした、リリス?何か考え事か?」
私の視線に気づいたのか、父上が心配そうに顔を覗き込んだ。
「いいえ、何でもありませんわ。ただ……最近、父上が領地のお仕事でお忙しそうでしたので、お身体が心配だったのです」
私は完璧な笑顔を貼り付け、鈴を転がすような声で嘘を吐いた。
「ああ、そうだな……少し立て込んでいてね。だが、もう少しで時間が作れるはずだ。そうしたら、またゆっくり食事でもしよう」
父上は少し眉を下げ、申し訳なさそうに微笑んだ。
その「忙しさ」の理由など、私には痛いほど分かっている。
ミカレンとエリナを、どうやってこの家に迎え入れるか。
障害となる私をどう説得するか。
その準備に奔走されているのでしょう?
もういいの、父上。
謝らないで。
父上が望む未来と幸せを手に入れられるなら、私は喜んで道化になりましょう。
私のような心の狭い娘の嫉妬など、取るに足らない小石のようなもの。
「ええ、楽しみにしていますわ」
当たり障りのない会話を重ね、互いに傷つかない距離感を保つ。
それが今の私たちに許された、精一杯の「家族団欒」だった。
やがてカロリン医師が食事を運び込み、私は父上に見守られながら、味のしないスープを喉に流し込んだ。
温かいはずのそれは、私の冷え切った心には届かないまま、ただ静かに胃の腑へと落ちていった。
私には消えない罪があり、贖罪としての義務がある。
かつて私たち家族は、母上という太陽を中心に強く結ばれていた。
けれど母上が亡くなり、太陽が失われたあの日から、私たちは散りゆく桜のようにバラバラになった。
……いいえ、違う。
その太陽を撃ち落とし、この家を永遠の冬に閉ざしたのは、他ならぬ私自身だ。
だから、私にはもう、自分の幸せを願う資格などない。
今、父上がどれほど優しく私の手を握ってくれていても、それは砂時計の砂のようにこぼれ落ちていく仮初めの時間。
いずれ、あの二人がやってくる。
継母となるミカレンと、義姉となるエリナが。
前世の記憶が、冷たい刃物のように胸を抉る。
私が憎み、父上が愛した二人。
彼女たちがこの屋敷の敷居を跨ぐその時、私だけの父上は奪われる。
この温かい手のひらも、優しい眼差しも、全ては新しい家族へと注がれるようになるだろう。
でも……それでいい。
父上はそれで、再び笑顔を取り戻せるのだから。
父上が幸せになれるのなら、私がその輪から弾き出されたとしても、それが正しい結末なのだ。
私のような罪人が、父上の幸福の邪魔をしてはいけない。
今の私は「公爵令嬢」という役割を全うするだけの人形。
心が軋む音など、笑顔の仮面で隠してしまえばいい。
「……どうした、リリス?何か考え事か?」
私の視線に気づいたのか、父上が心配そうに顔を覗き込んだ。
「いいえ、何でもありませんわ。ただ……最近、父上が領地のお仕事でお忙しそうでしたので、お身体が心配だったのです」
私は完璧な笑顔を貼り付け、鈴を転がすような声で嘘を吐いた。
「ああ、そうだな……少し立て込んでいてね。だが、もう少しで時間が作れるはずだ。そうしたら、またゆっくり食事でもしよう」
父上は少し眉を下げ、申し訳なさそうに微笑んだ。
その「忙しさ」の理由など、私には痛いほど分かっている。
ミカレンとエリナを、どうやってこの家に迎え入れるか。
障害となる私をどう説得するか。
その準備に奔走されているのでしょう?
もういいの、父上。
謝らないで。
父上が望む未来と幸せを手に入れられるなら、私は喜んで道化になりましょう。
私のような心の狭い娘の嫉妬など、取るに足らない小石のようなもの。
「ええ、楽しみにしていますわ」
当たり障りのない会話を重ね、互いに傷つかない距離感を保つ。
それが今の私たちに許された、精一杯の「家族団欒」だった。
やがてカロリン医師が食事を運び込み、私は父上に見守られながら、味のしないスープを喉に流し込んだ。
温かいはずのそれは、私の冷え切った心には届かないまま、ただ静かに胃の腑へと落ちていった。
