罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

エリナの黄金色の瞳が、燃え盛る荘園の残骸から足元の土へと向けられる。

「馬がないなら、そう遠くへは逃げられない。この湿った土には、確実に複数人の足跡が残っているはずだ」

彼女の口から、冷静な推測が自然とこぼれ落ちた。

エリナは血濡れた双剣を握り直し、後ろで待機する私兵たちへ向けて鋭く声を張る。

「総員!捜索範囲を森の奥へ広げろ!逃げた奴らを、できる限り生け捕りにするんだ!」

その的確な指示を聞き、コリンダは赤い瞳を細めて口角を大きく吊り上げた。

「状況の飲み込みと判断がやけに早いな、お前。立派な将軍の器だぜ」

彼の声には、純粋な感心と、彼女への高い評価が込められていた。

私兵たちは無言で頷き、すぐにいくつかの小隊に分かれて深い森の奥へと足を踏み入れていく。

コリンダと数名の私兵が北側の道を辿り、息を切らして逃げようとしていた幹部らしき壮年の男三人を、力ずくであっさりと取り押さえた。

同じ頃、別の獣道を進んでいたエリナは、木陰で不自然に揺れる人影を見つけた。

彼女は勢いよく地を蹴り、一瞬で数十メートルの距離を詰める。

エリナの右手の刃が空気を切り裂き、逃げようとする細身の男の左脚を深く斬り裂いた。

「ああっ!」

男は悲鳴を上げ、落ち葉の上に激しく転がり落ちた。

エリナは男の背中に膝を押し当て、その右腕を肩から切り落とそうと刃を振り上げる。

「待て!待ってくれ!僕はカヴィット・ミセシルだ!王家学院の医学生にして、ミセシル伯爵家の正統な跡取りだぞ!」

男の口から、恐怖に怯えながらも身分を振りかざす絶叫が上がった。

「僕に私情で危害を加えるなら、たとえ相手がタロシア公爵家の令嬢だろうと、貴族院から確実に糾弾され、破滅することになるぞ!」

貴族社会の複雑な事情や派閥争いに疎いエリナは、その言葉に一瞬だけ動きを止めてしまった。

「糾弾……」

振り下ろそうとした腕が、ほんの一瞬だけ硬直する。

だが、そのわずかな隙を、必死に生き延びようとするカヴィットは見逃さなかった。

彼は仰向けのまま、厚手のコートに隠し持っていた小型の弩弓を引き抜き、エリナの胸のど真ん中に狙いを定めた。

弦が弾かれる、鋭く短い音が響く。

「うあ!?」

エリナから、驚きと痛みの混じった短い声が漏れた。

使い込まれた革の胸当てには、羽の部分だけを残して矢が深々と突き刺さっていた。

強い衝撃に、エリナの体は後ろへ大きく弾き飛ばされ、湿った土の上へ仰向けに倒れ込む。

「は、ははは!ざまみろ!」

カヴィットの顔に、助かったと思い込んで生じた歪んだ歓喜の笑みが浮かぶ。

「公爵家の権力を笠に着て暴れ回る野蛮な女が!貴様はここで、誰にも知られずに腐り果てるんだ!」

彼が勝利の言葉を言い終わる直前、森の静寂を切り裂く二度目の弦の音が響き渡った。

一本の長い矢が、カヴィットの首を右から左へ貫く。

首を完全に射抜かれ、口から大量の血が泡を立てて噴き出した。

カヴィットの視界は急速に闇に沈み、歓喜の表情を浮かべたまま事切れた。

数十メートル離れた場所から、手に弩弓を握り締めたコリンダが、エリナの倒れた場所へ向けて猛然と駆け出してくる。

コリンダは武器を乱暴に放り投げ、地面に横たわるエリナの体を両腕で抱き起こした。

彼の赤い瞳は激しく揺れ動き、ひどく息を乱している。

彼は震える指先でエリナの顔を覆う頬当てを強引に外し、彼女の顔色を確かめた。

エリナの胸の中央、革の胸当ての隙間に突き立った矢の柄の周りから、赤い血がとめどなく流れ出し、周囲の土を黒く染めている。

矢じりには返しがついており、ここで無理に引き抜けば大量出血を引き起こしかねない。

「おい!エリナ!しっかりしろ!目を開けろ!」

いつもの尊大さをすっかり失った悲痛な叫びが、森に響き渡る。

「お前、こんな所で勝手に死ぬな!俺はまだ、タロシア公爵家の入り婿になっていないんだぞ!」

彼の手が、頬に触れて必死にぬくもりを確かめようと動き回る。

「エリナ…死ぬな馬鹿野郎…オレは、オレはまだお前に愛してるって言ってないぞ…!お願いだ、目を覚ませ…!」

しかし、エリナは、もう動かなかった。