罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

エリナの顔からすっと表情が消え、その黄金の瞳が、床に倒れている男の目を冷たく見据えた。

彼女の口から、感情を一切交えない平坦な声がこぼれ落ちる。

「今回は我々の完全な負けだ。組織の場所を教えよう」

男の口から、激痛に耐えるかすれた声が漏れた。

男の瞳がわずかに揺れ、視線がエリナの顔から床の板へとわざとらしく逸らされた。

「王都の外れ、東の第三区画を抜けた先にある旧工業地帯だ。そこに放棄された廃工場があって、そこが我々のアジトだ」

男の声には、降伏と絶望の色が巧みに作り出されていた。

しかし、エリナの頭は言葉をそのまま受け取るだけでなく、男のわずかな様子の変化を冷静に観察していた。

呼吸のリズムが不自然なほど安定しているし、慌てるふりも下手くそだ。

これは本当の降伏なんかじゃない。

時間を稼ぐか、罠に誘い込むための嘘の情報だ。

エリナは血に濡れたナイフを下ろし、冷たい石造りの壁に背をもたせかけた。

「そうか。王都外れの廃工場だな」

エリナは静かにうなずくと、ポケットから綺麗な布を取り出して手についた血を拭き取った。

その手を動かしながら、彼女はひどく平坦な声で次の質問を投げかけた。

「ところで、アンタの実家はどこだ? 親や兄弟の住所と名前を、正確に教えろよ」

その言葉が男の耳に届いた瞬間、男の全身がこわばり、呼吸がピタリと止まった。

彼の顔から作り物の絶望が剥がれ落ち、本物の恐怖と戦慄が露わになった。

「な、何を言っている。組織の場所は教えたじゃないか。私の家族は、今回の件とは一切無関係だぞ!」

男の声は震え、焦りで裏返っていた。

「質問に答えろ。無関係かどうかは、こっちで判断する」

エリナはナイフの刃を、男の左腕に軽く押し当てた。

金属の冷たさが、男に直接的な死の予感と、さらなる痛みの恐怖をはっきりと伝えてくる。

「五秒だけ待ってやる。一、二、三……」

「待て。待ってくれ! 西区画の、第三居住区だ。名前は……」

男は極限の恐怖に支配され、自分の家族の情報をすべて吐き出した。

エリナはコリンダへ視線を向け、顎をわずかに動かして合図を送った。

コリンダはニヤリと口角を上げると、すぐに店の外で待機している自分の精鋭たちへ指示を飛ばした。

「すぐに向かわせろ。対象の親と兄弟を無傷で捕らえ、こちらの監視下に置くんだ」

コリンダの声が、男の最後の希望を無残に打ち砕いた。

十数分が過ぎた頃、外から部下が戻り、確保完了の報告がコリンダの耳に届いた。

「対象の家族、全員捕らえたそうだ。今は我々の刃の下にいる」

コリンダが男の顔を見下ろし、残酷な事実を突きつける。

男の両目から完全に光が失われ、残っていたわずかな抵抗の意志も音を立てて崩れ去ったのか、全身からだらりと力が抜けた。

エリナは布で男の右腕の切り口を強く縛り上げ、手早く止血した。

これは慈悲などではなく、彼を情報源として生かしておくための単なる作業でしかない。

「さあ、アンタの家族の命は今、私の手の中にある。今度こそ、本当の場所を教えろ。一度でも嘘を吐いたら、アンタの親の指が一本ずつ減っていくことになるぞ」

エリナの瞳は、感情をすっかり失った捕食者のように冷酷だった。

「わかった……すべて話す。どうか、家族だけは……」

男の口から、嗚咽まじりの声が漏れ出した。

「本当のアジトは、王都から北へ一時間進んだ先にある『森の荘園』だ。かつて没落した貴族の別荘で、地下には広い施設がある。見張りの数は昼夜問わず三十人。罠の配置も教える……」

男は震える声で、組織の本拠地の正確な場所と、守りの仕組みを包み隠さずすべて吐き出した。

情報の聞き出しが終わり、部下たちが男を縛り上げて連行していく。

血と鉄の匂いが立ち込める店内に、エリナとコリンダの二人だけが残された。

コリンダは壁に寄りかかり、腕を組んでエリナの横顔を見つめた。

その赤い瞳には、純粋な感心と、彼女への深い興味が入り混じっていた。

「まさか、親を人質に取るとはな。やっぱお前、おっかない女だ」

彼の声には、貴族の令嬢らしからぬ残酷なやり方に対する、彼なりの賞賛が含まれていた。

エリナは血に濡れたナイフを布で拭い、鞘へ収めた。

「汚い連中には、汚い手を使わないと負けちまうからな」

彼女の声は平坦で、自分のやった非道な行いに対する罪悪感など微塵もなかった。

「だからオレは、お前に負けたってわけか」

コリンダがニッと口角を上げ、野性的な笑みを浮かべて挑発するように言った。

「うるさい。黙れ」

エリナは短くため息をつき、彼へ冷たい視線を向けた。