罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

地下深くにある石造りの部屋に、重苦しい空気が淀んでいる。

壁に並んだ燭台の炎が、円卓を囲む人々の影をゆらゆらと照らし出していた。

ここはガーナー領の近くに隠れ潜む闇組織の奥深く、秘密の話し合いが行われる場所だ。

円卓の一番奥に座る初老の幹部が、手元の羊皮紙の束を冷たい目で見下ろした。

「タロシア公爵家の第一令嬢、リリス・タロシアの最新の動きについてだ。彼女は今、表向きには王宮の療養室で療養中ということになっている。すっかり表舞台から姿を消した状態だな」

幹部の低い声が、石の壁に響き渡る。

「得体の知れない男から、彼女の薬代は遅れずに支払われている。資金のルートは繋がったままだ。だが、俺たちの見張りの周りで、おかしな動きがあるんだ」

円卓を囲む他の男たちが、一斉に初老の幹部へ目を向けた。

「最近、アジトの周りにスパイらしき連中が急に増えてきている。動きもしっかりとまとめられていて、ただの街のチンピラとは訳が違う」

幹部の一人が身を乗り出して、疑問の声を上げた。

「王宮から正式に婚約破棄されたという知らせは、まだ俺たちの耳には入っていません。あの女が王宮で完全に立場を失ったという証拠はないんですよ」

初老の幹部は静かにうなずき、自分の考えを話し始めた。

「その通りだ。婚約破棄されていない以上、あの女はまだ王太子カシリアの守りの中にあるかもしれない。そして、俺たちの周りを嗅ぎ回っているスパイどもは、リリスが自分のお金を使って動かしている私兵である可能性がとても高い」

部屋の空気が、すっと冷たくなったように感じられた。

「あの女は厄介すぎる。ガーナー領でのやり手っぷりを知っていれば、彼女の計算高さと冷酷さは疑いようがないだろう。このまま黙って見ていれば、俺たちはかなりの確率で危ない状況に追い込まれるぞ」

初老の幹部は、指先で羊皮紙をトントンと強く叩いた。

「リリスは、俺たち闇組織を完全に潰そうとしていると見て間違いない。自分の汚点を消し去るために、力ずくで組織を皆殺しにするつもりなんだ」

「だったら、やり方を根本から変える必要があるな」

初老の幹部の目に、冷酷で鋭い光が宿る。

「あの女の弱点は、その完璧に作り上げられた偽りの姿そのものだ。俺たちが直接王宮に手を出すのは無理に近い。だが、タロシア公爵家の内部に、よく効く毒を落とすことはできる」

幹部の口元が、わずかにニヤリと歪んだ。

「タロシア家の愛人の娘、エリナ・タロシア。彼女を利用するんだ」

円卓の男たちは、その言葉の本当の意味を察して、皆だまってうなずいた。

「エリナに、リリスの致命的な証拠を売り渡すんだ。あの女が違法な麻薬『幸せの実』にどっぷり浸かり、正気を失っているという決定的な証拠をな」

初老の幹部は、その情報がどれほどの価値を持つか改めて確認する。

「この証拠をナイフ代わりにして、エリナに握らせるんだ。あの娘は、突然転がり込んできた公爵の地位を自分のものにするため、一番の邪魔者であるリリスを潰せる証拠を、喉から手が出るほど欲しがっているはずだからな」

幹部たちは、タロシア家の中で無理やり権力争いを起こさせて、自分たちへの追及をそらすというその手口に感心していた。

リリスの私兵が組織に乗り込んでくる前に、彼女の足元をすっかり崩してしまうという作戦だ。

「公爵という絶対的な権力を前にすれば、どんな人間だって自分の欲望に素直になる。あの田舎育ちの娘だって同じことさ」

初老の幹部は立ち上がり、円卓を両手でバンと叩いた。

その音が、作戦開始の合図になった。

「動け。すぐにタロシア家の周りに潜んでいる仲間に指示を出せ。エリナ・タロシア宛てに、俺たちと会うように仕向ける手紙を送るんだ」

命令を受けた男たちが、すぐに行動に移ろうと立ち上がる。

「あの女を破滅させる刃は、彼女の家族に握らせるのが一番よく効くのさ」