再び目覚めたとき、私は見覚えのない無機質な部屋にいた。
「やっとお目覚めのようですね、リリス・タロシアさん」
かつてないほど冷え切った声。
無表情なメイドから解毒剤の投与を告げられ、私は自分が三日間眠っていたことを知った。
……あれから三日。
未来の太子妃のためなら、王家は迅速に動く。
すでに紛れもない証拠を押さえているはずだ。
もう、おしまいだ。
「目が覚めた以上、審判室へ出頭してください」
何も言えない。
今さら言い訳しても無駄だ。
最初から一人で生き延びるつもりなどなかった。
エリナの最期を見届けるために毒を半分吐き出したせいで、私だけが生き残ってしまったのだ。
もうどうでもよかった。
無意味な人生を長く続ける気はない。
抵抗せず大人しく連行された先は、血と錆びた鉄の匂いが息苦しく漂う拷問室だった。
臆病者ならすぐにでも失禁してしまいそうな雰囲気の中で、私は込み上げる恐怖を必死に抑え込んだ。
中央の机には、厳しい表情の拷問官。
目が合えば殺されそうな威圧感に、私は目をそらして震えながら座った。
私は本当に不器用だ。
死ぬ覚悟はできていたはずなのに、少し脅されただけで冷静さを失ってしまう。
「リリス・タロシア。三日前、あなたが用意した酒には毒が……」
「ええ、そうです。私がエリナを毒殺しました」
拷問官の言葉を遮り、私はあっさりと白状した。
突然の自白に拷問官が表情を変え、「やはりお前か!」と怒りを露わにした、その時。
扉の外から慌ただしい足音と声がした。
「太子殿下、お待ちください! 中は……」
制止を振り切るように扉が乱暴に開かれ、カシリア殿下が踏み込んできた。
血走った目は、凄まじい怒気を放っていた。
「リリス!!! お前は!!!」
殿下は瞬時に距離を詰めると、私の髪を強く掴んで無理やり顔を引き上げた。
「あああ!」
頭皮が剥がれるような痛みに、思わず声が漏れる。
「今、自白したそうだな! なぜだ!! なぜこんなことをした!! 答えろ!!」
私を切り捨てかねない勢いで叫ぶ殿下を前に、私は抵抗を諦めた。
今さら何を言っても無駄だ。
全部私のせいなのだから。
「理由なんてありません」
冷静を装った私の態度は、火に油を注いだだけだった。
「冗談じゃない!! ふざけるな!!」
殿下は近くの衛兵から剣を奪い取ると、私の首を狙って無慈悲に振り下ろした。
もう、終わる。
殺されても構わない。
後悔はない。
目を閉じた、その時。
「やめて!!」
絶叫に近い声と共に飛び込んできた人影が、とっさに殿下の腕にすがりついた。
しかし剣の軌道は完全には止まらず、切っ先が私の肩を深く裂き、噴き出した鮮やかな血が服を濡らした。
激痛に息を呑みながら、私は言葉を失った。
目の前の光景があまりにも理不尽で、理解が追いつかない。
「リリ……ス」
私を庇うように立ち塞がったその人は、きれいな顔を悲しみに歪め、声を震わせていた。
「本当に……私を殺そうとしたの?」
全身の震えが止まらない。
どうして――。
絶望と恐怖、そして底知れない混乱が脳を支配する。
確実に致死量の毒を飲ませたはずだ。
どれほど強い解毒剤があっても、死んだ人を蘇らせる薬はない。
なのに、目の前に立っているのは、間違いなくあのエリナだった。
私は頭を伏せたまま、声が出ない。
あまりにも不可解な現実が飲み込めなかった。
殿下は涙に濡れたエリナを抱き留め、荒い息を整えてようやく私の髪から手を離した。
「……もう行こう、エリナ」
「……ええ」
涙を拭えない彼女の手を取り、外へ向かって歩き出しながら、殿下は冷酷な声で私に言い放った。
「彼女を幽閉しろ! 審判を待たせろ!」
扉が閉ざされた。
死ぬ覚悟も、拷問を受ける覚悟もしていたはずだった。
だが、あの理解不能な現実を突きつけられ、私は全身の力を失ってその場にへたり込んでしまった。
なぜ、エリナは生きているのか。
私と一緒に死ぬはずだったのに。
なぜだ……?
なぜ……エリナを、殺せなかった……。
「やっとお目覚めのようですね、リリス・タロシアさん」
かつてないほど冷え切った声。
無表情なメイドから解毒剤の投与を告げられ、私は自分が三日間眠っていたことを知った。
……あれから三日。
未来の太子妃のためなら、王家は迅速に動く。
すでに紛れもない証拠を押さえているはずだ。
もう、おしまいだ。
「目が覚めた以上、審判室へ出頭してください」
何も言えない。
今さら言い訳しても無駄だ。
最初から一人で生き延びるつもりなどなかった。
エリナの最期を見届けるために毒を半分吐き出したせいで、私だけが生き残ってしまったのだ。
もうどうでもよかった。
無意味な人生を長く続ける気はない。
抵抗せず大人しく連行された先は、血と錆びた鉄の匂いが息苦しく漂う拷問室だった。
臆病者ならすぐにでも失禁してしまいそうな雰囲気の中で、私は込み上げる恐怖を必死に抑え込んだ。
中央の机には、厳しい表情の拷問官。
目が合えば殺されそうな威圧感に、私は目をそらして震えながら座った。
私は本当に不器用だ。
死ぬ覚悟はできていたはずなのに、少し脅されただけで冷静さを失ってしまう。
「リリス・タロシア。三日前、あなたが用意した酒には毒が……」
「ええ、そうです。私がエリナを毒殺しました」
拷問官の言葉を遮り、私はあっさりと白状した。
突然の自白に拷問官が表情を変え、「やはりお前か!」と怒りを露わにした、その時。
扉の外から慌ただしい足音と声がした。
「太子殿下、お待ちください! 中は……」
制止を振り切るように扉が乱暴に開かれ、カシリア殿下が踏み込んできた。
血走った目は、凄まじい怒気を放っていた。
「リリス!!! お前は!!!」
殿下は瞬時に距離を詰めると、私の髪を強く掴んで無理やり顔を引き上げた。
「あああ!」
頭皮が剥がれるような痛みに、思わず声が漏れる。
「今、自白したそうだな! なぜだ!! なぜこんなことをした!! 答えろ!!」
私を切り捨てかねない勢いで叫ぶ殿下を前に、私は抵抗を諦めた。
今さら何を言っても無駄だ。
全部私のせいなのだから。
「理由なんてありません」
冷静を装った私の態度は、火に油を注いだだけだった。
「冗談じゃない!! ふざけるな!!」
殿下は近くの衛兵から剣を奪い取ると、私の首を狙って無慈悲に振り下ろした。
もう、終わる。
殺されても構わない。
後悔はない。
目を閉じた、その時。
「やめて!!」
絶叫に近い声と共に飛び込んできた人影が、とっさに殿下の腕にすがりついた。
しかし剣の軌道は完全には止まらず、切っ先が私の肩を深く裂き、噴き出した鮮やかな血が服を濡らした。
激痛に息を呑みながら、私は言葉を失った。
目の前の光景があまりにも理不尽で、理解が追いつかない。
「リリ……ス」
私を庇うように立ち塞がったその人は、きれいな顔を悲しみに歪め、声を震わせていた。
「本当に……私を殺そうとしたの?」
全身の震えが止まらない。
どうして――。
絶望と恐怖、そして底知れない混乱が脳を支配する。
確実に致死量の毒を飲ませたはずだ。
どれほど強い解毒剤があっても、死んだ人を蘇らせる薬はない。
なのに、目の前に立っているのは、間違いなくあのエリナだった。
私は頭を伏せたまま、声が出ない。
あまりにも不可解な現実が飲み込めなかった。
殿下は涙に濡れたエリナを抱き留め、荒い息を整えてようやく私の髪から手を離した。
「……もう行こう、エリナ」
「……ええ」
涙を拭えない彼女の手を取り、外へ向かって歩き出しながら、殿下は冷酷な声で私に言い放った。
「彼女を幽閉しろ! 審判を待たせろ!」
扉が閉ざされた。
死ぬ覚悟も、拷問を受ける覚悟もしていたはずだった。
だが、あの理解不能な現実を突きつけられ、私は全身の力を失ってその場にへたり込んでしまった。
なぜ、エリナは生きているのか。
私と一緒に死ぬはずだったのに。
なぜだ……?
なぜ……エリナを、殺せなかった……。
