罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

カシリアは寝台に横たわるリリスの傍らに座り、彼女のしっとりとした白い肌を指先でそっとなぞった。

ほんのりと汗ばんだ肌からは、彼女ならではの甘い香りがふわりと漂い、カシリアの鼻先をくすぐる。

彼の指先が、彼女の華奢な肩から腕へと滑り落ちる。

その骨格はとても細く、少し力を込めれば折れてしまいそうなほどの儚さがある。

しかし、カシリアの頭の中には、先ほど彼女が静かな声で語った、貴族たちを自滅へと追いやる冷徹な計略の余韻が、まだ色濃く残っていた。

彼女はいかにも強く、気高い。

次期公爵、あるいは王妃として最高峰の教育を受け、身につけた知恵と計算高さは他の追随を許さない。

その圧倒的な美貌の裏側に、確実に命を奪うほどの猛毒を持った棘を隠し持っている。

彼女は決して、自分を脅かす敵に対して無条件の情けをかけるような人間ではない。

カシリアの瞳が、微睡むリリスの横顔にじっと注がれる。

それほど冷酷な計算ができる彼女が、何故、隠し子であるエリナと、身分不明の継母ミカレンを、少しの抵抗も見せずにタロシア公爵家に迎え入れたのか。

彼女は自分の心が壊れてしまうまで、あの無自覚な加害者であるエリナを恐れ、それでもなお追い出そうとはしなかった。

エリナの身体能力や人を惹きつける無邪気さは、確かに目を見張るものがある。

だが、上に立つ者としての知略や駆け引きの力においては、リリスとエリナの間に絶対的な差がある。

リリスがその気になり、先ほどのような計略の毒を一滴でも使えば、エリナを社会的に追い詰め、タロシア家から追放することなど容易だったはずだ。

しかし、リリスは最初から最後まで、その手を使うことはなかった。

彼女が復讐しなかった理由。

それは、父であるカスト・タロシアを愛し、彼が望む幸せな家族の形を壊したくなかったからに他ならない。

自分を犠牲にし、加害者を受け入れ、その結果としてひどい苦痛を背負い込む。

本当に、その賢さとは似合わないほど、馬鹿みたいに優しい女だ。

カシリアの胸の奥で、彼女への執着と守ってやりたいという思いが、これまでになく強く、大きく膨らんでいく。

彼はリリスの頬に触れていた手を滑らせ、彼女の柔らかな髪を指に絡めた。

「オレは、リリスのことを愛している。リリスがいてくれて、幸せだ」

何の計算もない、まっすぐで純粋な言葉が自然と口をついて出た。

静けさに包まれた療養室の空気が、その低い声によってかすかに震える。

カシリアの不意の言葉に、リリスは驚いたようにぱちりと目を開けた。

彼女の瞳がわずかに見開かれ、その視線がカシリアの瞳をまっすぐに見つめ返す。

「え……殿下……」

彼女の口から、戸惑いの混じったかすれ声が漏れた。

数秒の間の後、彼女の顔がみるみるうちに熱を帯びていく。

頬から耳の裏までが真っ赤に染まっていくのを、カシリアは愛おしく見つめた。

リリスは直視できずにふいっと顔を背け、視線をシーツの皺へと落とした。

彼女の両手が、胸元でシーツをぎゅっと握り締める。

「わ、私も、殿下のことを、愛しています」

細かく震える声で紡がれたその言葉は、彼女の隙のない知性とは無縁の、とても無防備で可愛らしい響きを持っていた。