罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

深夜、薬の効き目がなぜか完全に切れてしまった。

私の瞼の裏に、恐ろしい記憶が鮮明な色彩を伴って蘇ってきた。

タロシア公爵邸の、あの豪華な玄関扉の前。

私の荷物が詰め込まれたトランクが乱暴に放り出され、石畳の上に転がっている。

「お前はもう、この家の人間ではない。エリナこそが、真のタロシアの娘だ」

父カストの冷たい声が響き渡り、背後ではエリナが無邪気な笑い声を上げている。

私の居場所がすべて奪われ、真っ暗な底なし沼へと突き落とされるような、恐ろしい落下感。

「あっ……!」

絹の寝間着が、ひどい寝汗で肌にべったりと張り付いていた。

息が浅く荒くなり、心臓が早鐘のように鳴って、胸の内側を激しく打ち据えている。

視界に広がるのは、窓から差し込む微かな月明かりに照らされた、見慣れた王家療養室の天井と壁だった。

私は両手で顔を覆い、指の隙間から荒い息を吐き出した。

周りには誰もいない。

しんとした静けさが、かえって私の耳を圧迫してくる。

「捨てられていない……私は、カシリア殿下の側にいる……」

自分の耳に言い聞かせるように、震える声で呟く。

けれど、言葉で自分を落ち着かせようとしても、頭の中にこびりついた恐ろしい幻聴を消すことはできなかった。

『お前は完璧な令嬢なんかじゃない。醜くて、価値のない欠陥品だ』

『誰もオマエを愛していない』

幼い頃から積み重なってきた私を否定する声が、いろんな人の声色を借りて、頭の奥底で渦巻いている。

視界の隅の暗がりが歪み、うごめく黒い影の塊になって私に迫ってくるような錯覚に襲われる。

「違う……違う……!」

私は両手で両耳をぎゅっと塞いだ。

けれど、外の音を遮っても、頭の中から響いてくる声は止まらない。

恐怖で心が支配され、全身がガタガタと小刻みに震え始めた。

私は口元を両手で強く押さえ、喉から漏れ出そうになる悲鳴を必死に押し殺した。

目を見開き、とめどなく溢れ出す涙が指の隙間を伝って、シーツの上へポタポタと落ちていく。

お薬。

あの甘く、すべての苦しみを麻痺させて、完全な安らぎをくれる黄金の欠片。

乾ききった心が水を求めるように、私の思考は真っ直ぐに『幸せの実』へと向かっていった。

私は震える足で寝台から床へ降り立った。

裸足に伝わる石造りの床の冷たさが、私の感覚をさらに鈍らせていく。

私は壁際の薬品棚へと、ふらつく足取りで近づいた。

「どこ……どこなの……」

引き出しの取っ手を掴み、乱暴に引き開ける。

それらのものを掻き分け、手探りで奥まで探す。

次の引き出しを開け、さらに次の引き出しを開ける。

木が擦れるカチャカチャという乾いた音が、静かな療養室に響く。

けれど、どれだけ探しても、あの小さなガラス瓶は見つからない。

カシリア殿下が厳重に管理していて、この部屋のどこにも置いていないという事実が、私の絶望をさらに深くしていく。

「リリス……!どうしたんだ?」

不意に、背後で重い扉が開く音と共に、焦ったような声が耳に届いた。

私はビクッと肩を跳ねさせ、振り返った。

そこには、寝間着の上に薄いマントを羽織っただけのカシリア殿下が立っていた。

彼は、散乱した引き出しと、床に座り込んで震える私の姿を見て、ハッと見開かれた。

私の出す物音を聞きつけて、隣の執務室か、あるいは寝室から急いで駆けつけてくれたのだ。

「殿下……」

私の喉から、ひどく掠れた情けない声が漏れ出た。

彼は私の前に膝をつき、その大きな手で私の震える肩を包み込んでくれた。

温かい体温が、服越しに伝わってくる。

「ご、ごめんなさい……」

私は彼の胸元にすがりつき、その服を両手でぎゅっと握り締めた。

「私、すごく怖くて……暗闇の中に、引きずり込まれそうで……」

涙で視界がすっかり滲み、彼の顔が歪んで見える。

「今日だけ……今日だけでいいのです。もうちょっとだけ、お薬をもらえませんか」