カシリアは療養室の分厚い扉を背後で閉め、一人で謁見の間へと続く長い大理石の廊下を歩いていく。
軍靴の規則的な足音が、天井の高い王宮の廊下に虚しく響き渡る。
彼が後にした部屋には、薬の効き目と彼がそばにいることでようやく心の平穏を保っているリリスが残されている。
父王カナロアからの突然の呼び出し。
その目的が何であれ、彼女の安らぎを脅かすようなことがあれば、徹底的に排除しなければならない。
カシリアの青い瞳から一切の温もりが消え、冷徹で計算高い王太子の顔つきへと変わっていく。
謁見の間の大きな扉が、近衛兵の手によって重々しい音を立てて開かれた。
部屋には他の家臣の姿はなく、玉座に深く腰を下ろしたカナロア王だけが彼を待ち構えていた。
「よく来たな、カシリア」
カナロア王の低く響く声が、広い空間を支配する。
「女には少しも興味を示さなかったオレの息子が、よもや女に溺れるとはな。全くの予想外だったよ」
王の言葉には、明らかな嘲笑が混じっていた。
カシリアは玉座の数歩手前で立ち止まり、深くお辞儀をした。
「溺れてなどいません。オレはただ、彼女に適切な療養をさせているだけです」
彼の声は平坦で、感情の揺れを一切表に出さなかった。
「何とでも言え。だが、やりすぎだ」
カナロア王が玉座の肘掛けをバンと強く叩く。
「まだ正式な王妃でもない公爵令嬢を、王宮の奥深くに二週間も留め置いてどうするつもりだ。すでに外では、良からぬ噂が広まっているぞ」
「……噂、ですか」
カシリアの眉がピクリと動いた。
「お前は最近、自分の足元の情報収集を怠っているようだな。すでに貴族たちの間では、リリスが王妃の座を確実なものにするため、自らの体で王太子にすがりついているという悪い噂が流れ始めている」
「なんだと!?」
王宮の奥深くに匿っていることが、かえって周囲の邪推を招く結果になってしまったのだ。
「もう潮時だろう。彼女をすぐにタロシア公爵家へ帰らせろ。当主のカストからも、何度も面会の要請が来ている」
父王の命令は、絶対的な権力をもって下される。
しかし、カシリアの頭には、療養室の寝台で震えていたリリスの姿が焼き付いていた。
帰せるものか。
彼女は、腹違いの姉であるエリナの存在をひどく恐れている。
あの天真爛漫で無自覚に人を傷つけるエリナの元へ帰せば、リリスの心は再び壊れてしまう。
それだけは、何があっても食い止めなければならない。
「タロシア公爵家での静養なんて無理です。彼女には、オレの手元でもっと療養する時間が絶対に必要なんです」
カナロア王は玉座で顎に手を当て、カシリアを値踏みするように見下ろした。
「ほう。どうやら、オレが思っている以上に、あの娘を気に入っているようだな」
王の瞳に、冷たい計算の光が浮かんだ。
「まあいいだろう。お前がそこまでこだわるというのなら、この件に関するすべての責任を負え。街に流れる悪い噂を収めることと、カスト・タロシアの面会要請。これらすべて、お前自身の手で片付けるがいい」
「分かりました。すべて、オレが対処します」
彼はきびすを返し、謁見の間を後にした。
その足取りに少しの迷いもなかった。
軍靴の規則的な足音が、天井の高い王宮の廊下に虚しく響き渡る。
彼が後にした部屋には、薬の効き目と彼がそばにいることでようやく心の平穏を保っているリリスが残されている。
父王カナロアからの突然の呼び出し。
その目的が何であれ、彼女の安らぎを脅かすようなことがあれば、徹底的に排除しなければならない。
カシリアの青い瞳から一切の温もりが消え、冷徹で計算高い王太子の顔つきへと変わっていく。
謁見の間の大きな扉が、近衛兵の手によって重々しい音を立てて開かれた。
部屋には他の家臣の姿はなく、玉座に深く腰を下ろしたカナロア王だけが彼を待ち構えていた。
「よく来たな、カシリア」
カナロア王の低く響く声が、広い空間を支配する。
「女には少しも興味を示さなかったオレの息子が、よもや女に溺れるとはな。全くの予想外だったよ」
王の言葉には、明らかな嘲笑が混じっていた。
カシリアは玉座の数歩手前で立ち止まり、深くお辞儀をした。
「溺れてなどいません。オレはただ、彼女に適切な療養をさせているだけです」
彼の声は平坦で、感情の揺れを一切表に出さなかった。
「何とでも言え。だが、やりすぎだ」
カナロア王が玉座の肘掛けをバンと強く叩く。
「まだ正式な王妃でもない公爵令嬢を、王宮の奥深くに二週間も留め置いてどうするつもりだ。すでに外では、良からぬ噂が広まっているぞ」
「……噂、ですか」
カシリアの眉がピクリと動いた。
「お前は最近、自分の足元の情報収集を怠っているようだな。すでに貴族たちの間では、リリスが王妃の座を確実なものにするため、自らの体で王太子にすがりついているという悪い噂が流れ始めている」
「なんだと!?」
王宮の奥深くに匿っていることが、かえって周囲の邪推を招く結果になってしまったのだ。
「もう潮時だろう。彼女をすぐにタロシア公爵家へ帰らせろ。当主のカストからも、何度も面会の要請が来ている」
父王の命令は、絶対的な権力をもって下される。
しかし、カシリアの頭には、療養室の寝台で震えていたリリスの姿が焼き付いていた。
帰せるものか。
彼女は、腹違いの姉であるエリナの存在をひどく恐れている。
あの天真爛漫で無自覚に人を傷つけるエリナの元へ帰せば、リリスの心は再び壊れてしまう。
それだけは、何があっても食い止めなければならない。
「タロシア公爵家での静養なんて無理です。彼女には、オレの手元でもっと療養する時間が絶対に必要なんです」
カナロア王は玉座で顎に手を当て、カシリアを値踏みするように見下ろした。
「ほう。どうやら、オレが思っている以上に、あの娘を気に入っているようだな」
王の瞳に、冷たい計算の光が浮かんだ。
「まあいいだろう。お前がそこまでこだわるというのなら、この件に関するすべての責任を負え。街に流れる悪い噂を収めることと、カスト・タロシアの面会要請。これらすべて、お前自身の手で片付けるがいい」
「分かりました。すべて、オレが対処します」
彼はきびすを返し、謁見の間を後にした。
その足取りに少しの迷いもなかった。
