分厚いカーテンの隙間から差し込む朝日が、療養室の寝台を淡く照らし出している。
私はシーツの心地よい感触と、体に残るほんのりとした気だるさで目を覚ました。
目を開けると、すぐそばの丸テーブルで羊皮紙に目を通しているカシリア殿下の横顔が見えた。
昨夜、天覧台で過ごした記憶が、頭の中で鮮明によみがえる。
夜風の中で交わした深い口付け、彼の腕の中で感じた温かな熱、そして私の醜い部分をすべて受け入れてもらえたという事実。
顔にさっと血が上り、頬が熱くなっていくのがわかった。
私は興奮のあまり、彼の腕の中ですっかり意識を手放してしまっていたのだ。
公爵令嬢として、そして王太子の婚約者として、これほど恥ずかしい振る舞いはない。
「……殿下」
私の少し掠れた声に気づき、カシリア殿下は羽根ペンを置いて振り返った。
その青い瞳には、私を責めるような色は少しもなく、静かな湖面のような優しさが広がっていた。
「申し訳ございません……昨夜は、私、その……取り乱してしまって」
シーツをぎゅっと握りしめ、視線を落とす。
「気絶してしまうなんて、みっともない姿をお見せしてしまいました」
カシリア殿下は椅子から立ち上がり、私の寝台のそばへ歩み寄ってきてくれた。
彼の大きな手が、シーツを握りしめていた私の両手を上から優しく包み込む。
「謝ることはない。リリスがオレの腕の中で安心して眠ってくれたことが、何よりの証明だからな」
彼の声は低く、そして揺るぎない確信に満ちていた。
殿下は片手で私の頬に触れ、親指でそっと目元を撫でてくれる。
「これからの治療について、医師と話をしてきたんだ。急に薬をやめれば、君の体がもたない」
彼は懐から小さなガラス瓶を取り出した。
中には、鈍い黄金色の輝きを放つ『幸せの実』が入っている。
「だから、少しずつ量を減らしていこう。完全に体から毒が抜けるまで、オレがちゃんと見守るから」
殿下の瞳には、強い独占欲のようなものが宿っていた。
私は小さくこくりと頷き、彼が差し出した半錠の欠片を口に含んで、水と一緒に飲み込んだ。
喉を通り抜ける違和感のあと、頭の奥に微かな痺れが広がり、朝の冷え込みと不安感がすーっと和らいでいく。
呼吸が落ち着き、頭がはっきりしてきたところで、私は寝台から身を起こした。
「今日も、お手伝いさせてください」
私の言葉に、カシリア殿下は少しだけ微笑んで、丸テーブルの向かいの席を指差した。
昨日と同じように、私は彼のお手伝いとして、各領地からの財務報告書や陳情書を仕分ける作業を始めた。
紙が擦れる乾いた音と、羽根ペンが羊皮紙を滑る規則的な音が療養室に響く。
複雑な税金の計算や、様々な事情が絡む予算配分の見直し。
私の頭の回転は、薬の効き目と殿下がそばにいてくれる安心感のおかげで、とてもスムーズだった。
出来上がった決裁案の草案を渡すたび、彼は短くねぎらいの言葉をかけながら私の仕事ぶりを確認し、次の書類の束を差し出してくれる。
誰にも邪魔されない空間で、静かで満たされた時間が流れていく。
数時間が経ち、太陽が一番高く昇った頃。
療養室の分厚い扉の外から、硬い足音が近づいてくるのが聞こえた。
足音は扉の前で止まり、短くノックする音が室内に響いた。
「……入れ」
カシリア殿下が羽根ペンを置き、低い声で促した。
扉が開き、王家の近衛騎士の制服を着た男が入ってきて、深く頭を下げる。
「殿下。国王陛下より、至急お呼び出しでございます」
騎士の事務的な報告が、部屋の穏やかな空気を一変させた。
私の心臓がどきりと跳ねて、息が浅くなる。
カナロア国王陛下。
カシリア殿下の表情からすっと温もりが消え、冷徹な王太子の顔つきへと変わった。
「……何の用件か」
「詳しいことは存じません。ですが、すぐに謁見の間へ向かわれるよう、固く命じられております」
私はシーツの心地よい感触と、体に残るほんのりとした気だるさで目を覚ました。
目を開けると、すぐそばの丸テーブルで羊皮紙に目を通しているカシリア殿下の横顔が見えた。
昨夜、天覧台で過ごした記憶が、頭の中で鮮明によみがえる。
夜風の中で交わした深い口付け、彼の腕の中で感じた温かな熱、そして私の醜い部分をすべて受け入れてもらえたという事実。
顔にさっと血が上り、頬が熱くなっていくのがわかった。
私は興奮のあまり、彼の腕の中ですっかり意識を手放してしまっていたのだ。
公爵令嬢として、そして王太子の婚約者として、これほど恥ずかしい振る舞いはない。
「……殿下」
私の少し掠れた声に気づき、カシリア殿下は羽根ペンを置いて振り返った。
その青い瞳には、私を責めるような色は少しもなく、静かな湖面のような優しさが広がっていた。
「申し訳ございません……昨夜は、私、その……取り乱してしまって」
シーツをぎゅっと握りしめ、視線を落とす。
「気絶してしまうなんて、みっともない姿をお見せしてしまいました」
カシリア殿下は椅子から立ち上がり、私の寝台のそばへ歩み寄ってきてくれた。
彼の大きな手が、シーツを握りしめていた私の両手を上から優しく包み込む。
「謝ることはない。リリスがオレの腕の中で安心して眠ってくれたことが、何よりの証明だからな」
彼の声は低く、そして揺るぎない確信に満ちていた。
殿下は片手で私の頬に触れ、親指でそっと目元を撫でてくれる。
「これからの治療について、医師と話をしてきたんだ。急に薬をやめれば、君の体がもたない」
彼は懐から小さなガラス瓶を取り出した。
中には、鈍い黄金色の輝きを放つ『幸せの実』が入っている。
「だから、少しずつ量を減らしていこう。完全に体から毒が抜けるまで、オレがちゃんと見守るから」
殿下の瞳には、強い独占欲のようなものが宿っていた。
私は小さくこくりと頷き、彼が差し出した半錠の欠片を口に含んで、水と一緒に飲み込んだ。
喉を通り抜ける違和感のあと、頭の奥に微かな痺れが広がり、朝の冷え込みと不安感がすーっと和らいでいく。
呼吸が落ち着き、頭がはっきりしてきたところで、私は寝台から身を起こした。
「今日も、お手伝いさせてください」
私の言葉に、カシリア殿下は少しだけ微笑んで、丸テーブルの向かいの席を指差した。
昨日と同じように、私は彼のお手伝いとして、各領地からの財務報告書や陳情書を仕分ける作業を始めた。
紙が擦れる乾いた音と、羽根ペンが羊皮紙を滑る規則的な音が療養室に響く。
複雑な税金の計算や、様々な事情が絡む予算配分の見直し。
私の頭の回転は、薬の効き目と殿下がそばにいてくれる安心感のおかげで、とてもスムーズだった。
出来上がった決裁案の草案を渡すたび、彼は短くねぎらいの言葉をかけながら私の仕事ぶりを確認し、次の書類の束を差し出してくれる。
誰にも邪魔されない空間で、静かで満たされた時間が流れていく。
数時間が経ち、太陽が一番高く昇った頃。
療養室の分厚い扉の外から、硬い足音が近づいてくるのが聞こえた。
足音は扉の前で止まり、短くノックする音が室内に響いた。
「……入れ」
カシリア殿下が羽根ペンを置き、低い声で促した。
扉が開き、王家の近衛騎士の制服を着た男が入ってきて、深く頭を下げる。
「殿下。国王陛下より、至急お呼び出しでございます」
騎士の事務的な報告が、部屋の穏やかな空気を一変させた。
私の心臓がどきりと跳ねて、息が浅くなる。
カナロア国王陛下。
カシリア殿下の表情からすっと温もりが消え、冷徹な王太子の顔つきへと変わった。
「……何の用件か」
「詳しいことは存じません。ですが、すぐに謁見の間へ向かわれるよう、固く命じられております」
