罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

「リリスは、オレのことを心配してるよな」

カシリア殿下の低い声が、夜風に混じって私の鼓膜を震わせる。

「……はい」

喉の奥から、掠れた音が零れ落ちた。

「では、命令だ。オレの手から逃げるな」

その言葉と共に、私を包み込む彼の腕の力がさらに強まる。

薬がもたらす強制的な多幸感とは全く異なる、静かで絶対的な安心感が、私の全身の神経を隅々まで覆い尽くしていく。

「そんなの……ずるいです」

微かな私の呼気が、彼の衣服の布地に吸い込まれて消えた。

「ああ、オレは、ずるい男だ」

もう、逃げられない。

逃げる意志すら、この温もりの中に完全に溶けて消失してしまった。

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涙で濡れたリリスの可憐な表情と、彼女の身体から立ち昇る特有の甘い香りが、カシリアの嗅覚と視覚を完全に支配する。

彼の内奥に潜んでいた独占欲と情欲が、抑えきれないほどの熱量を持って膨れ上がっていく。

夜風が天覧台を吹き抜け、リリスの桜色の髪が不規則に揺れた。

彼女はカシリアの胸に顔を埋め、両手で彼の衣服を固く握り締めている。

カシリアの胸板越しに、彼女の浅く速い心拍の振動と、僅かに高い体温が直接伝わってくる。

冷たい夜気に混じる、彼女の涙が織りなす甘く重い匂い。

その匂いは、カシリアの脳内に残っていた王太子としての理性を、急速に溶かしていく。

カシリアの腕にさらなる力がこもる。

彼の手のひらがリリスの細い背中と後頭部を強く押さえつけ、彼女の身体を自身と完全に密着させる。

彼女が抱える狂気、自己嫌悪、薬物への依存、そして過去に犯した罪の数々。

すべては、オレが背負う。

カシリアの瞳の奥で、暗く熱い情動の炎が燃え上がる。

「リリス」

カシリアは低い声を喉の奥から絞り出す。

彼はリリスの背中に回していた右手を離し、彼女の濡れた頬を指先でなぞりながら、その顎をゆっくりと持ち上げた。

リリスの瞳孔が僅かに開き、涙に濡れた瞳がカシリアを直視する。

彼女の顔面には驚きと、そして彼への絶対的な依存の色が浮かんでいる。

カシリアは自身の顔を下げ、彼女との物理的な距離をゼロへと縮めた。

彼の唇が、リリスの微かに震える唇に重なる。

最初は触れるだけの接触であったが、カシリアの情動がそれを許さなかった。

彼は彼女の後頭部を支える手に力を込め、逃げ場を完全に塞いだ状態で、さらに深く唇を押し当てる。

リリスの唇が僅かに開き、カシリアの舌がその内側へと侵入する。

彼女の口内は熱く、微かに涙の塩気する。

カシリアは彼女の舌を絡め取り、その呼吸の主導権を完全に奪い去る。

「んっ……ぁ……」

リリスの喉の奥から、甘く、そして苦しげな吐息が漏れ出る。

彼女の衣服を掴む手の力が強まり、カシリアの胸元に爪が食い込む。

カシリアの全身の血液が沸騰し、皮膚表面の温度が急激に上昇する。

彼の唇が離れると、二人の間に細い銀糸が引かれ、すぐに夜風に切られて消えた。

カシリアは荒くなった自身の呼吸を整えることなく、再びリリスの唇を激しく塞ぐ。

夜の天覧台で、王都の灯火を見下ろしながら、二人は互いの熱と存在を貪るように、何度も、深く口付けを交わし続けた。