罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

殿下は私の手を引き、優しく立たせた。

「少し、外の空気を吸いに行こう。王宮の頂上にある、天覧台へ」

「外、ですか。ですが……他の皆様の目が……」

公には、私はガーナー領での過酷な領地経営による過労で療養中の身となっている。

夜の王宮を歩き回る姿を見られれば、いらぬ憶測を呼びかねない。

「安心しなさい。手配は済んでいる。誰ともすれ違うことはない」

カシリア殿下の手引きで進む長い回廊は、本当に人影が一つもなかった。

本来なら警護に当たっているはずの近衛兵すら配置から外されており、王宮の最上層は完全な静寂に包まれている。

静まり返った石造りの階段を上り、天覧台に到着すると、そこには純白のクロスが掛けられた円卓と、すでに用意された温かな夕食が待っていた。

食事後。

風が心地よく吹き抜け、眼下には灯りが点り始めた王都の広大な街並みが広がっている。

「ガーナー領で、一緒に見た夜景を思い出すか」

殿下が私の隣に立ち、穏やかな声で問いかける。

「はい。ですが、ここは……ずっと賑やかで、そして明るいですわ」

眼下に広がる無数の光は、とても美しく、そして残酷だ。

その光が眩しければ眩しいほど、私の内側に沈澱している暗い泥濘がより際立って感じられる。

私は光の当たる場所に立つ資格などない存在なのだと、王都の輝きが私を責め立てている気がした。

ずっと、心臓の奥底で蠢いていた疑問。

それを口にしてしまえば、殿下が与えてくれたこの脆い平穏が、音を立てて崩れ去ってしまうかもしれないという恐怖がある。

それでも、私は聞かずにはいられなかった。

薬を減らすことに失敗し、この先も一生あの黄金の欠片にすがりつくしかない自分が、彼の隣に立つ未来など想像できなかったから。

「殿下……」

私の声はひどく掠れ、夜風に掻き消されそうになる。

「本当に、殿下の将来の正妻は、私みたいな、薬に溺れている傷物でよろしいのですか」

殿下が微かに目を見開くが、私は視線を王都の灯火に落としたまま言葉を紡ぐ。

「私は、薬のせいで色々な過ちを犯してしまいました。殿下からの愛も、疑い、信じられずにいました」

心が完全に壊れかけていた時、誘拐の恐怖から私を救い出し、底知れぬ孤独の中でずっと傍にいてくれたナミス。

私は彼に依存し、慰めを求め、自身の体を捧げようとまでした。

もしあの時、ナミスと本当に……一線を越えてしまっていたら、今の私は死を以て謝罪するしかないのだ。

今でも、殿下にはそれだけは隠している。

私は、それほどまでに愚かで、浅ましい女なのだ。

罪悪感が喉を締め付ける。

「もし、私が一生、この薬から抜け出せなくなったら、どうなさいますか。王家は、それを許せるはずがありません。王妃が、こんな精神不安定な欠陥品でよいわけがないのです。もし、国王陛下が私の本当の事情を知ったら……殿下の立場まで危うくなります」

殿下が私のすべてを知り、それでも愛してくれていることは、頭では理解しているつもりだ。

けれど、私自身の心が、その愛を受け入れる資格を激しく拒絶してしまう。

「殿下は、私のどこを好きになってくださったのでしょうか」

涙が視界を滲ませる。

「私は愛嬌も持ち合わせておりません。女としての魅力も乏しく、ただ強がるだけのつまらない女です。薬がなければ正気を保つことすらできない、壊れた器です。殿下の輝かしい未来を汚す、ただの泥そのものです。……正妻の座には、到底向いていないと思います」

両手を胸の前で固く握り締める。

「例え殿下が私を妾に降格させたとしても、私には一切の不満はございません。どうか、殿下の足枷にだけは……」

これ以上、私という重荷を彼に背負わせたくない。

いっそ、日の当たらない影の存在として彼に飼われる方が、どれほど気が楽だろうか。

私の悲痛な懇願に対し、カシリア殿下は怒ることも、呆れることもなかった。

彼の長い指先が、眼下で無数に瞬く王都の灯火を静かに指し示す。

「リリス」

低く、穏やかな声が夜の冷気を震わせる。

「ガーナー領の夜景は、王都と比べれば、どう?」