罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

ファティーナとあの男爵令嬢が応接室を去ってから、数日が過ぎた。

その間、私は何度も自問自答を繰り返し、得体の知れない焦燥感に心を蝕まれていた。

今の私は、カシリア殿下の完全な庇護のもとで、安全な療養室に匿われている。

老医師が処方する半錠の幸せの実と、心を静めるための鎮静剤。

これらを決められた通りに飲んでいれば、あの恐ろしい発作に襲われることはない。

理性を保ち、殿下と政務の会話を交わし、微笑み返すことができる。

でも、それでは足りないのだ。

私はいつまで、この薬に繋がれたままでいるのか。

本当に自分は治るのか。

その不安が、私を内側から少しずつ削り取っていく。

私は何度か、こっそりと薬の量を減らすことを試みた。

半錠をさらに割って、ごく小さな欠片だけにしてみる。

数時間は耐えられる。

けれど、時間が経つにつれて、体の内側から冷たい震えが這い上がってくる。

思考が暗く沈み込み、理由のない不安と恐怖が胸を圧迫する。

壁のシミが蠢くのが見え、耳の奥で私を嘲笑う声が聞こえ始める。

耐えきれずに鎮静剤の量を増やして幻聴を黙らせようとしたこともあった。

しかし、そうすると今度は頭に重い靄がかかり、思考回路が完全に停止してしまう。

指先一つ動かすことすら億劫になり、ただベッドに横たわって天井を見つめるだけの、文字通りの廃人になり果てる。

一度完全に壊れてしまった器は、そう簡単には直らない。

その現実が、冷たく重く私にのしかかっていた。

黄金の薬がもたらす多幸感と絶対的な安寧。

それに一度でも脳を染められてしまえば、依存という呪縛から抜け出すことは容易ではないのだ。

殿下は私を愛し、全てを受け入れると言ってくれた。

でも、いつか私が完全に正気を失い、薬の量を増やしてくれと泣き叫ぶだけの醜い肉塊になったとき。

それでも彼は、私を愛し続けてくれるのだろうか。

そんな確証はどこにもない。

自分がいつか治るという希望の光が、日に日に見えなくなっていく。

本当に、私はこの薬の依存から抜け出せるのだろうか。

不安で夜も眠れず、暗闇の中で何度も何度も問いかけた。

その日、カシリア殿下は重要な御前会議のため、長時間この部屋を空けることになった。

殿下が部屋を出ていく足音が完全に遠ざかったのを確認し、私は扉の前に控えていた侍女を呼んだ。

「……お願いがあります。王家医療室の老医師を、誰にも知られないよう密かにここへ呼んでください」

扉をノックする音が響き、静かに老医師が姿を現した。

彼はいつも通り、深い皺の刻まれた顔に穏やかな表情を浮かべている。

「お加減はいかがでしょうか、リリス様。殿下がお留守の間に、何かご不便でも?」

「いいえ、体調は安定しています。ただ、少し……お尋ねしたいことがありまして」

私はベッドから立ち上がり、窓際の椅子に腰を下ろした。

老医師もそれに従い、少し離れた位置に立つ。

私は周囲に誰もいないことを確認してから、彼を真っ直ぐに見据えた。

「先生。私に処方されているあの薬……幸せの実についてです」

老医師の肩が僅かにこわばるのがわかった。

「はい。何か問題でもございましたか」

「私が知りたいのは、私と同じようにあの薬に依存してしまった他の人たちのことです」

私は両手を膝の上で固く組み、言葉を紡いだ。

「麻薬依存に陥った他の人は、最終的にどうなっているのですか。……回りくどい話はいりません。素直に、教えてほしいのです」

老医師は目を伏せ、沈黙した。

王家専属の医師として、公爵令嬢である私に不吉な言葉を口にすることをためらっているのだろう。

「先生。私は自分の現状を正確に把握しておかなければならないのです。例え、それがいかにも残酷な宣告であったとしても……私は真実を知る覚悟があります」

私の強い眼差しを受け、老医師は深く重いため息をついた。