罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

その言葉が、鋭い刃となって私の胸を深々と突き刺す。

「まあ、彼女がこれまで私の後ろをずっと付いてきてくれた恩義がありますから、殿下への斡旋くらいは頼んであげようと思います。……ですが、流石にもう、これで友達は終わりですよね。私の名前にまで傷がついてしまいますわ」

見下すようなその視線。

役に立たない汚物を切り捨てる、貴族社会の容赦ない現実。

もともとカシリア殿下の愛と薬の力でギリギリの均衡を維持していた私の精神に、取り返しのつかない致命的な亀裂が入る音がした。

「リリス様にも、そういう人が友達だなんて、ひどく恐ろしく思いませんこと?」

ファティーナの同意を求める無邪気な問いかけが、私の耳の奥で耳鳴りへと変わる。

汚いものに手を出した愚か者。

友達の終わり。

もし、ファティーナが、そして他の貴族たちが、私の体内に流れている毒の正体を知れば。

私がこの令嬢以上に薬に溺れ、汚濁に塗れた存在だと知れば。

皆、同じように私を汚物と見なし、冷酷に背を向けて立ち去っていくのだ。

殿下の優しさという薄氷の上に築かれた私の安全な世界が、音を立てて崩れ去っていく。

息を吸うことすら忘れ、ただ暗闇へと引きずり込まれる感覚に震えることしかできなかった。

それが真なる貴族の、絶対的に正しい在り方だ。

私はその現実を、誰よりも痛いほどに知っておくべきだった。

どれだけ親しくとも、一線を越えれば即座に切り捨てられる。

友達だから特別扱いされる、秘密を守ってもらえるなんて、稚拙な夢を見るべきではなかったのだ。

私が同じ罪を犯していると知れ渡れば、ファティーナも、その他の貴族たちも、今の男爵令嬢に向けるのと同じ蔑みの眼差しで私を見る。

「……ええ、そうですわね。私も、少し驚いてしまいましたわ」

私は微かに震える指先を膝の上で隠し、完璧な公爵令嬢の微笑みを顔に貼り付けた。

話題を当たり障りのない学院の噂話へとそらしながら、ただひたすらにカシリア殿下の帰還を待つ。

応接室の時計の針が進む音が、私のすり減った神経を不規則に叩き続けていた。

今朝、自分で薬の量を半分に減らした影響が、じわじわと体の内側から這い上がってくる。

指先の冷えが止まらない。

視界の端が僅かに歪む。

それでも、私は毅然とした態度を保ち続けた。

昼過ぎ。

廊下の向こうから、重く規則的な足音が近づいてきた。

扉が開かれ、カシリア殿下が姿を現す。

その眉間には深い皺が刻まれ、明らかに機嫌を損ねている様子だった。

重要な御前会議で何かしらの問題があったのか、それとも別の理由か。

そして、殿下の一歩後ろには、ナミスの姿があった。

彼が殿下と共に外へ出ていたということは、彼に命じられた闇組織への調査に関して、何らかの動きがあったからだろうか。

ファティーナはすぐさま立ち上がり、美しいカーテシーで殿下に挨拶をした。

「カシリア殿下。お忙しいところ、不躾な訪問をどうかお許しくださいませ」

彼女が流暢な言葉で事情を説明しようとする中、殿下の視線はファティーナを通り越し、真っ直ぐに私へと向けられた。

彼の瞳が、私の顔色や微細な表情の変化を細かく探っているのがわかる。

何か不安なことはないか、体調は崩していないか。

その無言の問いかけに対し、今の私が返せるのは、ただ一つ。

心配は要りませんという、精巧に作られた微笑みだけだった。

ファティーナが愛の実の件と婚約破棄の概要を説明し終えようとしたその時だった。

部屋の隅で今まで石像のようにおとなしく縮こまっていた男爵令嬢が、突如として弾かれたように前に飛び出してきた。

彼女は私の隣にいたファティーナを押し退けるようにして、私とファティーナの手を両手で強く握りしめた。

その手は嫌な汗でひどく濡れており、異様な熱を帯びていた。

「お願いします……! リリス様、ファティーナ様、カシリア殿下! どうか……どうか、私の婚約の斡旋をして頂けませんでしょうか……!」

彼女はその場に崩れ落ち、私のドレスの裾にすがりつきながら泣き叫んだ。

「私は、本当にあの方のことが好きで……! 最初は、ほんの少しの好奇心だったのです。学院で、最近疲れが取れる良い薬があるって聞いて……少しだけ、飲んでみただけで……」

彼女の声は上ずり、呼吸は乱れている。

「そしたら、本当に元気になって、嫌なことも全部忘れられて……だから、次も少しだけって……! まさか、あれが手放せなくなる恐ろしい薬だなんて、少しも想像していなかったのです! 気がついたら、薬がないと夜も眠れなくて、頭がおかしくなりそうで……!」

生々しい恐怖と絶望の告白。

「お金が足りなくて、商人から借りて……でも、彼のために綺麗でいたかっただけなのです! それなのに、あの方は私を汚いものを見るような目で見て、家からも勘当されて……! 私、もう行く場所がないのです……! どうか、お助けください……!」

彼女の懇願が、応接室の空気を重く沈ませる。

私はドレスの裾を握りしめる彼女を見下ろしながら、その姿が過去の自分自身と完全に重なっていることに気づいていた。

違うのは、私がナミスやカシリア殿下に救われたことだけ。

カシリア殿下は冷ややかな目で泣き崩れる令嬢を見下ろし、やがて短く息を吐いた。

「……事情は理解した。学院の風紀に関わる問題だ。斡旋の件、善処しよう」

殿下のその言葉に、男爵令嬢は何度も床に額を擦りつけて感謝を述べた。

しかし、殿下はすぐさま視線を私へ移した。

「だが、この話は療養中のリリスには負担が大きすぎる。リリス、君は部屋へ戻りなさい」

極めて自然で、私を気遣う思いやりに満ちた言葉。

しかし、私は殿下の考えていることがはっきりとわかっていた。

彼が本当に守ろうとしているのは、私の体調ではない。

この令嬢の悲惨な姿を見て、私が過去の罪悪感や恐怖をフラッシュバックさせ、精神の均衡を崩すことを恐れているのだ。

私という存在の醜悪さをこれ以上刺激しないための、巧妙な隔離。

「……はい、殿下。お気遣い、感謝いたします」

私は殿下の言葉に沿う形で、静かに立ち上がった。

男爵令嬢からそっと手を引き抜き、完璧な作法で一礼する。

私は彼らに背を向け、応接室の扉へ向かって歩き出した。

ナミスが扉を開け、私が通り過ぎるのを静かに見守っている。

廊下へ出た瞬間、重い扉が閉まる音が背後で響いた。

その音を合図にしたかのように、私の脳裏に唐突なノイズが走った。

『お前も、同じ汚物だ』

誰の声かもわからない、冷たく粘りつくような幻聴。

今朝、自らの意志で半分に減らした薬の欠片。

それだけでは、私の精神の崩壊を食い止めるには全く足りていなかったのだ。

指先の震えが腕全体へと広がり、心臓が早鐘を打ち始める。

息が詰まる。

視界が暗く明滅し、立っていることすら困難になる。

足りない。

足りない。

足りない。

私を正常な人間として繋ぎ止めるための、あの黄金の薬が。

私は壁に手をつき、必死に声を殺して呼吸を整えようとした。

しかし、内側から溢れ出す自己嫌悪と恐怖は、容易に私の理性を呑み込んでいく。