罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

療養室。

絹の天蓋付きベッドに身を沈めながら、私はぼんやりと天井の細かな刺繍の模様をなぞっていた。

ここ最近、私の症状は以前よりも明確に悪化している。

医師の処方による半錠の『幸せの実』と鎮静剤の組み合わせでは、もはや内側から湧き上がる発作を完全に抑え込むことができなくなっていた。

今日も朝から鎮静剤の影響で思考が鈍く濁り、身体を起こすことすら億劫で、ただ寝台に横たわるだけの時間を消費している。

症状が重くなった原因は、自分でも痛いほど理解していた。

私が、あの凄惨な出来事の被害者ではなく、他でもない加害者であったという絶対的な事実。

その現実を、私の精神が拒絶しているのだ。

本当は、すべての責任や罪をカシリア殿下に押し付け、彼を恨むことで自分の正当性を保ちたかった。

私が勝手に作り上げた想像の悲劇と、殿下が私に注いでいた無垢な純愛という現実。

その決定的な乖離が、私の脆い精神をさらに深い泥底へと引きずり込んでいく。

カシリア殿下は、政務の合間を縫って何度もこの部屋を訪れてくれる。

彼の瞳に浮かぶ深く優しい色を見るたびに、私の胸の奥が鋭く痛む。

彼の無条件の肯定と愛情は、泥に塗れた私にはあまりにも眩しすぎる。

だからこそ、私は本能的に、そして防御反応として、完璧な微笑みを顔に貼り付ける。

「いいえ、私はもう大丈夫です。ご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ございません」

声のトーン、伏し目がちな視線の角度、口角の上がり具合。

すべてが以前と変わらぬ、非の打ち所のないタロシア公爵令嬢のそれである。

心を完全に殺し、空虚な人形としての顔を装う。

そうしなければ、自分が犯した罪の醜悪さを直視してしまい、今度こそ本当に精神が砕け散ってしまうからだ。

私の言葉を聞くたびに、殿下の顔に一瞬だけ悲痛な影が差すのを、私は見ないふりをしてやり過ごした。

そんな空虚な療養の日々が数日続いたある日の午後。

部屋の外で硬い靴音が響き、重厚な扉の前に一人の騎士が姿を現した。

「リリス様。国王陛下よりのご召喚です」

彼女の事務的な声が、停滞していた部屋の空気を鋭く切り裂いた。

その場に居合わせていたカシリア殿下が、弾かれたように立ち上がる。

「ビアンナ、オレを無視するのか」

殿下の声には、明らかな怒りと警戒が滲んでいた。

彼が私を隠蔽し、守り抜こうと構築した政治的な防壁を、国王陛下が力業で突破しようとしている。

ビアンナは王太子である殿下の怒気を前にしても、表情一つ変えずに直立の姿勢を崩さない。

「殿下。陛下は婚約の件で、リリス様とお話したいとのことだけですので、ご心配には及びません」

「っ……」

殿下が奥歯を噛み締める音が、静かな室内に響いた。

正当な理由。

それは、いかに王太子であっても、容易に拒否できるものではない。

これは避けられない対話なのだ。

私はゆっくりとベッドから身を起こし、小さく息を吐き出して、殿下へと声をかけた。

「大丈夫です、殿下。殿下をこれ以上困らせることはしたくありません。私、行ってまいります」

完璧な令嬢としての模範的な返答だ。

殿下はすがるような瞳で私を振り返る。

「この調子で、本当に大丈夫なのか」

彼の震える声色が、私の罪悪感をさらに刺激する。

国王陛下の前に出れば、私が被っているこの脆い仮面は簡単に剥がれ落ちてしまうかもしれない。

陛下の眼差しに耐え、タロシア公爵令嬢としての完璧な立ち振る舞いを維持するためには、今の私では足りない。

私は伏せていた視線を僅かに上げ、殿下の袖口をそっと指先で摘んだ。

「……もしよろしければ、もう少し、幸せの実を頂けませんでしょうか」

絞り出した声はひどく掠れていた。

薬の力に頼れば、陛下の前でもより自然な、完璧な笑顔を構築できるかもしれない。

あるいは、そんな立派な理由など存在せず。

ただ単純に、私の壊れた身体と心が、あの甘く痺れる毒の欠片を激しく渇望しているだけなのかもしれない。