罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

深夜、冷え切った自室のベッドに横たわっても、眠りは一向に訪れなかった。

目を閉じれば、腕の中に残る、鳥の骨のように軽くて薄っぺらいリリス様の感触が蘇る。

そして、虚ろな瞳で笑いながら、己の尊厳を薬代として売り飛ばそうとした彼女の声が、耳の奥にこびりついて離れない。

僕は薄闇の中で、自分の両手を見つめた。

剣ダコで分厚くなったこの手は、何の役にも立っていない。

心の奥底の、見ざるを聞かざるで蓋をしてきた暗く醜い部分が、チリチリと疼いていた。

王太子カシリアとの婚約解消。

それは、彼女が次期王妃という絶対不可侵の座から降りることを意味する。

それはつまり、一介の騎士でしかない僕が、堂々と彼女に愛を打ち明け、彼女をこの手で囲い込むことが「可能」になるということだ。

だが、そんな自分勝手な感情に身を委ねるほど、僕は愚かではない。

喜ぶべきなのか? 冗談じゃない!

激しい自己嫌悪が胃の腑を焼く。

薬物に脳を支配され、自己判断能力を失い、ただ薬欲しさに縋り付いてくるだけの抜け殻を抱きしめて、それを「愛」と呼ぶのか?

そんなものは、相手の弱さに付け込んだ醜悪な依存のすり替えに過ぎない。

薬が僕という人間に置き換わっただけの、まやかしの愛情だ。

そんな形で彼女からの感情を受け取ることを、僕自身の騎士としてのプライドが、男としての誇りが、絶対に許さない。

リリス様は、最初からあのように壊れていたわけではなかった。

美化するつもりはない。

彼女は元々、他者に対して無慈悲なほど厳格だった。

しかしそれは、己にも等しく厳しい、気高く完璧な公爵令嬢としての矜持によるものだった。

努力を重ね、次期王妃にふさわしい知識と教養を身につけ、誰よりも学生会長の座を目指して邁進していたはずだった。

いつから、彼女の歯車は狂い始めたのか。

答えは明白だ。

あの日だ。

彼女が突如として、あれほど固執していた学生会長への立候補の取り消しを、自ら教師に申し出たあの日。

今にして思えば、あれが彼女の精神が完全に折れた瞬間だったかもしれない。

その後も、領地で支援金が削られ、王都からの嘘に傷つけられ、重圧と孤独が彼女の理性をすり潰し、

ついには、大切にしていた亡き母親の形見すら、換金してしまった。

気高かった令嬢が、這いつくばって泥水を啜るような無惨な姿へと転落していく様を、僕はただ見ていることしかできなかった。

薬という暴力は、彼女から道徳も、誇りも、愛への未練さえも奪い去り、ただ「次の錠剤」を求めるだけの獣へと作り変えてしまったのだ。

「とっても素晴らしい考えでしょう?」と彼女は言った。

狂っている。

完全に正気の沙汰ではない。

己の人生を金貨に換算し、それを薬に変えて幻覚の中で死んでいくことを「幸せ」だと定義するなど、論理が根底から破綻している。

しかし、その破綻した論理を前にして、僕はどうすればいい?

千二百金貨、そして深く根を張る巨大な裏組織のネットワーク。

剣の腕も、親衛隊長という権力も、この奥深い闇の前では、赤子の手首ほどにも役に立たない。

圧倒的すぎる無力感。

僕は、この両手で彼女を守ると誓ったはずなのに、彼女の脳を蝕む毒を抜くことも、組織の脅迫から彼女を切り離すこともできない。

前向きな解決策など、どこにある?

精神を正常に戻すための強制的な隔離治療?

千二百金貨という負債の強引な帳消し?

それを誰が、どうやって実行する?

カシリア殿下を巻き込むか?

いや、それは彼女を処刑台に送るに等しい。

答えは、どこにあるのだろうか。

闇を見つめる僕の目に映るのは、血を流しながら沈んでいくリリス様の幻影と、その傍らで立ち尽くす、惨めで無能な自分自身の姿だけだった。

奥歯を噛み締める口の中から、鉄の味がした。