罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

馬車の車輪が硬い土を削り、規則的な振動が座席を通じて私の背骨に伝わる。

ガーナー領の質素な領主館が、車窓の四角い枠の中で徐々に縮小していく。

窓の外には、護衛として随伴するタロシア家の騎士たちの銀色の甲冑が並び、その先頭でナミスが手綱を握っている。

何日もの行程が続く。

数日後、窓から見える風景の色彩が変化する。

整然と区画された石畳の道と、高い尖塔を持つ石造りの建築物が視界を埋め尽くした。

王都近郊の商業都市への到達である。

都市の統治を任されている領主の広大な屋敷。

大理石の床と、精緻な彫刻が施された柱が並ぶ応接室の長椅子に、私は腰を下ろした。

対面の椅子には、豪奢な上着を身に纏った初老の領主が座っている。

私は背筋を伸ばし、顔の筋肉を動かして完璧な慈愛の微笑みを構築した。

「突然の訪問を許していただき、感謝いたします」

声は室内に広がる。

「辺境での領地経営改革は困難を極めましたが、ようやく一定の成果を収めることができました。この成果をカシリア殿下へ直接ご報告する前に、王都近郊の洗練された都市運営を視察し、さらに見聞を深めたいと考えたのです」

言葉を区切り、領主の目元へ視線を合わせた。

「ただし、私が一時的に帰還しているという情報は、厳秘にしていただきたいのです」

領主の眉が僅かに動く。

「すべては、カシリア殿下への報告を完璧なものとするため。不要な混乱や、他領からの干渉を避けるための措置ですわ」

王太子の名と、公爵令嬢としての権威が彼の思考を制限する。

領主は深く頭を垂れ、私の滞在の秘匿と、この豪華な屋敷の一室を提供することを確約した。

翌日の夜、宛てがわれた寝室の重い扉が開き、ナミスが入室した。

彼の外套は夜の湿気を帯びており、右手には小さな麻袋が握られている。

ナミスは私の前で立ち止まり、麻袋を卓の上に置いた。

「リリス様。王都の裏市場に通じる情報網を辿り、接触に成功しました」

彼が麻袋の口を開く。

中には、見慣れた鈍い金色に輝く錠剤が多数入っていた。

「一錠、一銀貨。これが本来の適正な取引価格です」

私は椅子から立ち上がり、指先でその金色の錠剤の一つに触れた。

金属的な冷たさと、微かな粉の感触が指の腹に伝わる。

あの辺境の組織に要求された一錠十金貨という異常な数値。

領地を切り売りし、母の形見を解体してまで捻出しなければならなかった莫大な負債。

その絶対的な搾取の連鎖が、一銀貨という硬貨の響きによって完全に切断されたのだ。

急激な安堵が私の胸部を広げ、大量の空気を吸い込む。

唇の端が上がり、声を出さずに息を吐き出した。

生存の確保。

この小さな粒が、私の尊厳と肉体を底なしの泥沼から引き上げた。

さらに翌日の昼下がり。

卓の上に王国の広域地図を広げ、ナミスと共に私軍動員の計画を練っていた。

「安価な薬の供給路は確保したわ。次は、あのガーナー領近郊の組織の排除よ」

指先が、地図上の辺境の印を叩く。

「公爵家の権限を用いて、近隣に駐屯するタロシア家の私兵部隊を秘密裏に再編成する。目的は盗賊団の討伐という名目に書き換える。一切の交渉を挟まず、物理的な力の行使によって拠点ごと焼き払う」

終わらない脅迫を与え続けた者たちへの、完全な報復の構築。

ナミスが私の指し示す配置図を確認し、頷きを返そうとしたその時。

部屋の扉がノックされ、領主館の使いの者が一枚の書状を銀の盆に載せて運んできた。

ナミスがそれを受け取り、危険がないか表面を確認してから、私の手元へ置く。

表面には宛名も差出人の名も記載されていないが、どこかで似たような見ものを見てた気がする。

手紙の内容を見ると、世界が明滅するほどめまいがした。

『リリス様。昨日、王都近郊の市場にて一銀貨一錠の価格で三ヶ月分の薬をご購入されたこと、誠に喜ばしく存じます』