罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

卓の上に置かれた小さな木箱の中には、鈍い金色の錠剤が整然と並べられていた。

私の視線は、その小さな球体から離れない。

あの古屋敷での取引から数日が経過した。

南端の土地を売り払い、他領の商人に握らせた五十金貨の横領。

それすらも、その場しのぎの延命措置に過ぎなかった。

毎月三百金貨。

この莫大な金額を継続して捻出する手段は、今の私には一切残されていない。

領地の税収をこれ以上誤魔化して搾取すれば、領民の生活は完全に崩壊する。

右手の指先が、机の端を強く握りしめた。

爪が木肌に食い込み、微かな音を立てる。

私は視線を上げ、部屋の隅で直立するナミスの姿を捉えた。

「ナミス」

私の声は低く、平坦な音として室内に響いた。

ナミスは即座に歩み寄り、私の数歩手前で片膝をつく。

「はい、リリス様」

「もう、限界よ」

机の上の木箱を指差した。

「金がないわけではないわ。公爵家の財産全体から見れば、三百金貨は気軽に用意できる額よ。でも、正当な理由を偽装して引き出す手段が、この辺境の領地にはもう存在しない」

私は言葉を切り、一度深く息を吸い込んだ。

冷たい空気が肺を満たす。

「一度や二度なら、なんとなく誤魔化すことは可能かもしれない。でも、毎月となれば必ず発覚する。領地の役人たちも、いずれ不審に思うはずよ」

ナミスの栗色の瞳が、私の顔を真っ直ぐに見上げる。

表情には、一切の動揺がなかった。

「私は、決めたわ」

背筋を伸ばし、椅子から立ち上がった。

紫のドレスの裾が擦れる音が鳴る。

「王都へ帰還する。このままこの領地に留まれば、私はあの組織に永遠に搾取され続け、最後には何もかもを失う」

数歩歩き、窓の外の灰色の空を見つめた。

「元々、私が初めて手に入れた薬は1錠に1銀貨だった。王都の広大な裏市場であれば、あの法外な10金貨などという価格ではなく、適正な、安価な取引を行う闇医者が必ず存在するはずよ」

孤立した辺境ではなく、情報の集まる王都の暗部。

そこにこそ、この終わらない脅迫の連鎖を断ち切る活路がある。

「そして」

振り返り、再びナミスを見下ろした。

視線は、彼が腰に帯びた剣の柄へと向けられる。

「王都へ戻り、安価な取引相手を見つけた後。あの辺境の組織を、完全に潰すわ」

ナミスの肩が僅かに反応した。

「公爵家の権力と、私軍を動かす。手段は問わない。あの小賢しい男も、背後にいる者たちも、すべて物理的に排除する」

自身の罪を隠蔽するために、公爵家の軍事力を私的に行使する。

それは貴族としての倫理を完全に逸脱した、非難されるべき重大な背任行為だ。

「公爵令嬢としての権力を乱用したと、糾弾されるでしょうね。でも、今のように一方的に怯え、無限に搾取され続けるよりはましよ。私は、私の生存と尊厳を、自分の手で取り戻す」

ナミスは膝をついたまま、深く頭を垂れた。

彼の呼吸が数度、ゆっくりと繰り返される。

彼自身も、毎月三百金貨という異常な要求を満たすことが不可能であると、すでに計算を終えていたのだろう。

「……御意に」

ナミスの顔が上がり、彼の声が室内の静寂を破った。

「リリス様の御決断を、支持いたします」

彼は立ち上がり、右手を自身の胸当てに強く押し当てた。

「どのような非難を浴びようとも、どのような手段を用いようとも。僕は、リリス様の剣となり、盾となります」

誓いの言葉が、冷えた身体に僅かな熱を帯びさせる。

「王都への出発の準備を整えなさい」