罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

「……どうして、その名前を……」

私の口から零れ落ちた微かな音は、湿った土の匂いが立ち込める薄暗い小屋の中に、静かに吸い込まれていった。

目の前で巨大な背嚢を背負い、ナミスの刃を首筋に当てられて震える男の姿が、視界の中でゆっくりと焦点を失っていく。

呼吸が止まり、全身の毛穴が収縮する。

手足の先端から急速に温度が奪われ、冷たい重石が胃の底に落ちる感覚が私を支配した。

外套を深く被り、厚いヴェールで顔を覆い隠し、地方の小貴族の娘として振る舞ってきた私の偽装。

それが、全くの無意味であった事実が、この名もなき末端の男の口から発せられた言葉によって確定した。

私は目を細め、静かに息を吸い込んだ。

彼らはどこから、私の正体を特定したのか。

前回の取引の場を思い返す。

この小屋に現れた、暗色の仕立ての良い外套を纏った若い男。

彼の無駄のない所作、洗練された歩み、そして一切の感情を排した冷たい視線。

あの男の背後には、裏社会に深く根を張る上位の貴族の存在が間違いなく介在していた。

そして、その男の前で私が犯した数々の失態が、脳裏に鮮明に蘇る。

金貨一枚への価格高騰を告げられた直後、私は公爵家の価値観で、即座に一年分、すなわち三百六十五金貨の支払いを命じた。

地方の小規模な領地を持つ家門の娘が、それほどの莫大な現金を親の許可なく即座に動かせるはずがない。

その時点で、私が持つ財力への異常な感覚が露呈していた。

さらに、ヴェールの下から紡ぎ出された私の言葉の響き。

地方特有の訛りが一切混じらない、王都の中心部で洗練された教育を受けた者特有の、完璧で滑らかな発音。

質素な灰色のドレスに身を包んでいても、隠しきれなかった私の肉体の輪郭。

幼い頃から高度な栄養を与えられ、過酷な肉体労働を一切経験していないことを示す、滑らかで白い肌と、節のない細い指先。

私の存在を構成するすべての要素が、私自身が上位の貴族階級に属する者であることを、自ら大声で叫んでいたのだ。

思考がさらに数日前の出来事へと遡る。

カシリア殿下がこのガーナー領へ視察に訪れ、私と共に市場を歩いていたあの日の昼下がり。

ナミスが背後から近づき、私の耳元で囁いた報告。

医者からの急な面会希望。

あの時、私は殿下の目を盗んで接触を図るリスクを即座に計算し、面会を断り、別の日時を指定した。

だが、あれは本当にただの緊急の報告であったのか。

私の視界の端が、再び冷たく暗く沈む。

彼らは、王太子であるカシリア殿下か私の動向を把握した上で、意図的にその時間を狙って接触を試みたのだ。

領地を管理している女性が、彼らの顧客である『小貴族の娘』と同一人物であるかを確認するための罠。

私がその面会を拒絶し、別の日時を指定したその判断そのものが、彼らへの完璧な回答となってしまった。

私は、タロシア公爵家の令嬢であり、王太子の婚約者であるリリス・タロシア本人であると、自らの行動で完全に証明してしまったのだ。

強く歯を食いしばり、ヴェールの下で唇を噛み締めた。

彼らは私の正体を知り尽くした上で、あえてこの怯えた末端の男を遣わした。

1ヶ月分の薬、三百金貨。

それを一ヶ月以内に支払えという要求は、私がその額を用意できる公爵令嬢であるという確信に基づいている。

そして、私が自らの正体と、禁忌の薬に完全に依存しているという破滅的な秘密を守るためであれば、どれほど法外な要求であっても決して反抗できないことを、彼らは完全に理解し、掌握している。

手足は見えない太い鎖で幾重にも縛り上げられ、逃げ道はすでにすべて塞がれていた。

ナミスの刃が男の皮膚を僅かに押し込み、細い血の筋が男の首筋を伝って流れる。

「……お嬢様」

ナミスの声が、背後から低く響く。

彼の言葉には、圧倒的な殺意と、私を守れなかったことに対する深い苦悩が混じっていた。

私は目の前で涙を流す男を見下ろしたまま、自身の尊厳が音を立てて崩れ去り、底なしの暗闇へと引きずり込まれていく感覚をただ受け入れることしかできなかった。