午後の陽光が差し込む荒野。
乾いた土を蹴り上げる蹄の音が一定のリズムで響き、冷たい風が灰色のドレスの裾を激しく揺らしている。
私は鞍の上に跨り、両手で前部をきつく握りしめていた。
「ナミス。もっと速く、もっと揺らして」
私の声は風に負けないよう高く鋭く響く。
並走するナミスが手綱を引き、舌を鳴らす。
馬の筋肉が大きく躍動し、上下の揺れがさらに激しさを増した。
体が空中に浮き上がり、革の鞍に強く打ち付けられる。
太ももの内側と背中の筋肉が熱を持ち、昨日酷使したことによる鋭い痛みが容赦なく私の肉体を攻撃する。
指先の関節は白く変色し、感覚が失われつつある。
呼吸が浅くなり、心臓が肋骨を打ち据える速度が限界に達している。
だが、その過酷な肉体の悲鳴こそが、現在の私を正常な思考へと繋ぎ止める太い鎖となっていた。
薬の離脱症状による脳を掻き毟るようなノイズや、暗闇に引きずり込まれる自己嫌悪。
そうした精神の病理が、純粋な物理的苦痛の前に完全に押し潰され、霧散していく。
私は目を大きく見開き、流れていく荒野の景色をただ直視し続けた。
限界に達した私が声を出すよりも早く、ナミスが手綱を引いて馬の速度を落とした。
徐々に揺れが収まり、四肢の動きが完全に停止する。
ナミスが私に近づき、両手で私の腰を支えて地面へと降ろした。
土の上に両足がついた瞬間、膝の力が抜け、私の体は前方へ崩れ落ちそうになる。
ナミスが即座に私の体を支え、近くに広がる丈の低い芝生の上へと静かに座らせた。
「リリス様。深く息を吸い、ゆっくりと吐いてください」
彼の低い声が耳に届く。
私は荒い息を繰り返し、額に浮かんだ汗が風に冷やされるのを感じた。
全身の筋肉が熱を持ち、微かに震えている。
しかし、視界は極彩色に染まることもなく、灰色の絶望に沈むこともない。
ただ、そこにある土と草と空の色を、あるがままに認識している。
朝に飲んだ半錠の薬と、この過酷な肉体労働。
その二つが組み合わさることで、私は私自身の力で正気を保つことに成功していた。
私はゆっくりと呼吸を整え、隣に膝をつくナミスへ視線を向けた。
ナミスの栗色の瞳が、私の表情の変化を静かに観察している。
額の汗、荒い呼吸、そして焦点の定まった視線。
彼は安堵したように目元を少しだけ細め、姿勢を正した。
「お体の具合は、いかがですか」
私は彼を見つめたまま、口角を微かに上げた。
「痛いわ。全身の筋肉が悲鳴を上げている。でも、頭の中は驚くほど静かよ」
私の声は掠れていたが、昨日までの死に絶えたような響きは消え失せていた。
「ナミス……お陰で、私はまた救われた」
彼が私をあの密室から連れ出し、物理的な恐怖と刺激を与えてくれなければ、私は今頃、半錠の苦しみで、頭も体も動けなくなってしまう。
私が求める過酷な要求にすべて応え、常に傍で私の崩壊を食い止めてくれる存在。
私は自分の右手を持ち上げ、彼の左手へ向かって伸ばした。
私の指先が、彼の手の甲に触れる。
ナミスは一瞬だけ動きを止め、視線を私と重ねた。
私は彼の手を裏返し、私の指を彼の指の隙間に滑り込ませた。
掌と掌が密着し、指を深く絡ませる。
彼の鍛え抜かれた手の皮膚から、高い熱量が私の冷えた指先へと流れ込んでくる。
「何があっても、ナミスだけはずっと側にいてくれるとわかっているわ」
私は絡めた手に力を込め、彼を真っ直ぐに見据えた。
「ナミスが教えてくれたこの乗馬で、私はまた半分の薬でも、動くことができるようになった」
彼の指が、私の指を力強く握り返してくる。
言葉による確認は不要だった。
彼の手の力強さが、私への絶対的な忠誠と重い執着を明確に伝えている。
私は彼の手を引いて自分の頬に押し当て、その熱を直接皮膚から吸収した。
彼の親指が、私の頬の汗を静かに拭い取る。
私は目を閉じ、彼の掌から伝わる脈動を感じながら、この荒野の冷たい風の中で、確かな生の実感を味わっていた。
乾いた土を蹴り上げる蹄の音が一定のリズムで響き、冷たい風が灰色のドレスの裾を激しく揺らしている。
私は鞍の上に跨り、両手で前部をきつく握りしめていた。
「ナミス。もっと速く、もっと揺らして」
私の声は風に負けないよう高く鋭く響く。
並走するナミスが手綱を引き、舌を鳴らす。
馬の筋肉が大きく躍動し、上下の揺れがさらに激しさを増した。
体が空中に浮き上がり、革の鞍に強く打ち付けられる。
太ももの内側と背中の筋肉が熱を持ち、昨日酷使したことによる鋭い痛みが容赦なく私の肉体を攻撃する。
指先の関節は白く変色し、感覚が失われつつある。
呼吸が浅くなり、心臓が肋骨を打ち据える速度が限界に達している。
だが、その過酷な肉体の悲鳴こそが、現在の私を正常な思考へと繋ぎ止める太い鎖となっていた。
薬の離脱症状による脳を掻き毟るようなノイズや、暗闇に引きずり込まれる自己嫌悪。
そうした精神の病理が、純粋な物理的苦痛の前に完全に押し潰され、霧散していく。
私は目を大きく見開き、流れていく荒野の景色をただ直視し続けた。
限界に達した私が声を出すよりも早く、ナミスが手綱を引いて馬の速度を落とした。
徐々に揺れが収まり、四肢の動きが完全に停止する。
ナミスが私に近づき、両手で私の腰を支えて地面へと降ろした。
土の上に両足がついた瞬間、膝の力が抜け、私の体は前方へ崩れ落ちそうになる。
ナミスが即座に私の体を支え、近くに広がる丈の低い芝生の上へと静かに座らせた。
「リリス様。深く息を吸い、ゆっくりと吐いてください」
彼の低い声が耳に届く。
私は荒い息を繰り返し、額に浮かんだ汗が風に冷やされるのを感じた。
全身の筋肉が熱を持ち、微かに震えている。
しかし、視界は極彩色に染まることもなく、灰色の絶望に沈むこともない。
ただ、そこにある土と草と空の色を、あるがままに認識している。
朝に飲んだ半錠の薬と、この過酷な肉体労働。
その二つが組み合わさることで、私は私自身の力で正気を保つことに成功していた。
私はゆっくりと呼吸を整え、隣に膝をつくナミスへ視線を向けた。
ナミスの栗色の瞳が、私の表情の変化を静かに観察している。
額の汗、荒い呼吸、そして焦点の定まった視線。
彼は安堵したように目元を少しだけ細め、姿勢を正した。
「お体の具合は、いかがですか」
私は彼を見つめたまま、口角を微かに上げた。
「痛いわ。全身の筋肉が悲鳴を上げている。でも、頭の中は驚くほど静かよ」
私の声は掠れていたが、昨日までの死に絶えたような響きは消え失せていた。
「ナミス……お陰で、私はまた救われた」
彼が私をあの密室から連れ出し、物理的な恐怖と刺激を与えてくれなければ、私は今頃、半錠の苦しみで、頭も体も動けなくなってしまう。
私が求める過酷な要求にすべて応え、常に傍で私の崩壊を食い止めてくれる存在。
私は自分の右手を持ち上げ、彼の左手へ向かって伸ばした。
私の指先が、彼の手の甲に触れる。
ナミスは一瞬だけ動きを止め、視線を私と重ねた。
私は彼の手を裏返し、私の指を彼の指の隙間に滑り込ませた。
掌と掌が密着し、指を深く絡ませる。
彼の鍛え抜かれた手の皮膚から、高い熱量が私の冷えた指先へと流れ込んでくる。
「何があっても、ナミスだけはずっと側にいてくれるとわかっているわ」
私は絡めた手に力を込め、彼を真っ直ぐに見据えた。
「ナミスが教えてくれたこの乗馬で、私はまた半分の薬でも、動くことができるようになった」
彼の指が、私の指を力強く握り返してくる。
言葉による確認は不要だった。
彼の手の力強さが、私への絶対的な忠誠と重い執着を明確に伝えている。
私は彼の手を引いて自分の頬に押し当て、その熱を直接皮膚から吸収した。
彼の親指が、私の頬の汗を静かに拭い取る。
私は目を閉じ、彼の掌から伝わる脈動を感じながら、この荒野の冷たい風の中で、確かな生の実感を味わっていた。
