罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

看守兵に連れられ、私は牢獄の奥へ進む。

漂う空気は、錆びた鉄と血の匂いに満ちていた。

鉄格子から向けられる囚人たちの下卑た視線に、私は凶悪な猛獣に狙われた獲物のように震えを止められなかった。

だが、連行された先は、規格外に広く清潔で、真新しい布団まで備えられた部屋だった。

「これは……貴族用の牢獄?」

思わず声が漏れた私を、看守兵は乱暴に牢へ押し込んだ。

「入れ! この恩知らずめ!」

看守兵は心底からの軽蔑を込めて吐き捨てた。

「殿下やエリナ様の要請がなければ、お前は死刑か、さっきの囚人どもに犯されて死んでいたはずだ。残りの人生、ずっと殿下たちに感謝し続けろ!」

看守が去った後、私は床に崩れ落ちた。

「エリナ……どうして……」

胸をえぐるような後悔。

今になって思い返せば、エリナは何一つ悪くなかった。

私の嫌がらせを黙って受け止め、他人に悪口を言うこともなく、殺されかけた今でさえ私を救った。

彼女こそが、この物語のヒロインなのだ。

それに比べて私は、なんと身勝手で傲慢な悪人だろう。

けれど、気付くのが遅すぎた。



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半年前。

私はカシリア殿下の隣に立つため、領地管理の試練を受けて、遠方の領地へ向かっていた。

そして、成果を上げ、未来の太子妃に選ばれると信じて、王都へ凱旋した。

だが、私を待っていたのは、カシリア殿下とエリナの婚約発表だった。

――最初から、すべてが嘘だったのだ。

期待を持たせるくらいなら、一言「お前は不要だ」と切り捨ててくれればよかったのに。

婚約披露の宴。

私はただ作り笑いを浮かべ、祝福の言葉を並べて酒を飲み続けた。

完璧な笑顔で偽りの祝福を塗り固めるうちに、私の心は完全に壊れた。

すべてをエリナに奪われた。

名誉も、

地位も、

家族も、

愛も。

――エリナ。

すべてはあなたのせい。

あなたさえいなければ、私は幸せになれたのに。

あなたを、このまま生かしてはおけない。

もう私は終わりだ。

ならば最後まで、あなたと共に地獄へ行こう。

きっと、私は狂ってしまったのだ。

私は闇市で毒薬を買った。

飲めば永遠の眠りに落ち、朽ち果てるまで目覚めない毒。

眠り姫になるには最適な薬だった。

私はそれを事前にワインの瓶へ混入した。

あとは、二人きりになる機会を待つだけだった。

私は、エリナを殺して自分だけが生き残るつもりはなかった。

ただ、生きる意味を失った私の人生と引き換えに、エリナの未来を奪おうとしただけだ。

やがて、その日が来た。

ある貴族の宴で、なぜか、エリナだけが先に屋敷へ戻った。

――神が与えた好機だ。

「エリナ、準太子妃おめでとう。二人きりで飲む機会もなかったわ。少しだけ一緒に飲みましょう」

私は完璧な笑顔で声をかけた。

「……ええ、そうね」

エリナは、疑うこともなく頷いた。

最後の舞台は、朧月に照らされた庭園。

「ありがとう、リリス。こんなに幸せになれるなんて、思ってもいなかった」

「そうね。これからも、みんなで幸せに暮らしましょう」

完璧な嘘を重ねた。

「ええ、みんな幸せに!」

「乾杯」

完璧な祝福の言葉。

軽く触れ合ったグラスの音は、弔鐘のように庭園へと響いた。

そして二人同時にワインを口にし、一気に飲み干した。

完璧な謀殺だった。

これで私も死ぬ。

だが、最後まで見届けるため、私はワインを半分だけ飲み込み、残りはそっと袖に吐き出した。

「ごめん……私、酔ったかもしれ……」

言葉の途中で、エリナはテーブルに崩れ落ちた。

酔ったのではなく、毒が効いたのだ。

「さようなら、エリナ……」

その姿を見届けた私は、奇妙な安堵を覚えた。

「怖がらないで。私も、すぐにそっちへ行くから」

もう少し酒を飲むつもりだったが、強烈な眩暈に襲われ、私はそのまま意識を失った。

ごめんなさい。

エリナ。

私の、大嫌いな異母姉。