罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

窓から差し込む陽光が、机の上に置かれた小さな硝子瓶を照らしている。

瓶の底には、鈍い金色の錠剤がわずかに残るのみとなっていた。

ここ数日間、私の世界は常に極彩色に彩られ、一切の翳りを知らなかった。

朝の目覚めから夜の眠りに至るまで、胸を満たすのは絶対的な肯定感と、静かなる歓喜のみ。

過去十数年の生涯において、これほどまでに満ち足りた日々を過ごした記憶はない。

不快な幻聴も、自己を責め立てる声も、完全に消失している。

しかし、その完全なる幸福の対価たる薬が、もうすぐ尽きようとしていた。

私は硝子瓶を指先でなぞり、冷たい感触を確かめる。

これがない世界へ戻ることは、もはや許されない。

あの暗く沈んだ、冷徹な現実を再び直視するだけの精神力は、今の私には残されていない。

私は傍らに立つナミスへ視線を向け、静かに言葉を紡いだ。

「ナミス、あの医者を呼んでちょうだい。薬が、もう切れるわ」

ガーナー領の一角、人目を避けた薄暗い家屋の一室。

私は再び、質素な外套を身に纏い、顔にヴェールをつけて粗末な木椅子に腰を下ろしていた。

扉が開き、古びた革鞄を下げた男が静かに入室してきた。

前回と同じ、あの闇医者だ。

男は部屋の空気を読み取るように視線を巡らせた後、私の前で深く一礼した。

「お加減は、いかがでしょうか」

男の声は低く、感情の起伏を感じさせない。

私はヴェール越しに彼の目を見据え、ゆっくりと口を開いた。

「薬の効果は良かったわ。もっと欲しいの」

私の言葉に、男の口角がわずかに上がった。

「それは何よりでございます。それでは、今回はもう少し多めにお求めになりますか。例えば、二週間分ほど」

男の提案は、商人のそれだった。

私は手元の布の皺を伸ばし、静かに首を振る。

「そうね。一気に多めに購入した方が、私も安心できるわ」

私は言葉を切り、男の瞳の奥を覗き込む。

「でも、教えてちょうだい。この薬、どれくらい飲み続ければ、私の症状は完全に緩和されるのかしら」

男は少しの間沈黙し、顎に手を当てて思考を巡らせた。

「私自身の経験不足もありますが……お嬢様の症状の深さを考慮いたしますと、半年から一年間ほど継続していただければ、完治に至るものと推測いたします」

半年から一年。

その数字が私の脳内で計算される。

一日一錠として、一年でおよそ三百六十錠。

「わかったわ。一年間の分くらい、用意してちょうだい」

私の声は平坦で、日常の買い物を命じる程度の響きしか持っていなかった。

男の目が大きく見開かれ、息を呑む音が静かな室内に響いた。

「一年……!? 一年分、でございますか」

男は動揺を隠しきれず、言葉を反芻する。

一錠が十銀貨。

一年分となれば、小規模な領地の年間税収にも匹敵する莫大な金額となる。

「わかりました。ただ、非常に貴重な薬でございまして、私個人の手元にはそれほどの在庫がございません」

男は額に浮かんだ汗を粗末な袖で拭い、姿勢を正した。

「上の者と相談する必要がございます。本日は、二週間分しかお持ちしておりません」

男は深く頭を下げながら、眼球だけを動かして周囲の暗がりを探っていた。

小貴族の娘と名乗る目の前の少女が、一年分の薬を躊躇いもなく要求した事実。

その莫大な資金力は、一介の小貴族が持ち得るものではない。

男の頭の中で、眼の前の少女の正体に対する様々な推測が駆け巡っているのが手にとるようにわかる。

正体を探ろうとする男の視線が、部屋の隅に立つナミスへ向けられた。

ナミスは一歩前へ出た。

彼が腰に帯びた剣の柄に手を添え、冷え切った眼差しを男へ向ける。

訓練を積んだ王家の近衛騎士が放つ、絶対的な威圧感。

男の肩が跳ね、慌てて視線を床へと落とした。

探りを入れることは命に関わる。

男の震える呼吸が、その結論を物語っていた。

彼には手を出してはならない領域だと悟ったのだ。

「仕方ありません。上の組織に報告し、至急手配いたします」

男は革鞄を開け、二つの小さな硝子瓶を机の上に置いた。

瓶の中には、あの金色の錠剤が詰まっている。

私はそれを見つめ、静かに頷いた。

「わかったわ。今回はその二週間分を買うわ」

私はナミスに視線で合図を送る。

ナミスが進み出て、皮袋に入った銀貨を机の上に音を立てて置いた。

私は立ち上がり、外套の裾を整えながら男を見下ろす。

「また薬が用意できたら、一年間分、早めに用意してちょうだい」

「至急手配致します」

男は喜びを抑えきれない表情で、何回もお礼して、急いで離れた。