罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

食堂の長い木製机の上には、焼けた肉と麦を煮込んだ汁の匂いが漂っていた。

ランプの灯りが揺れ、金属の食器が触れ合う乾いた音が響く。

私は長椅子の中央に座り、タロシア家の騎士たち、そしてカシリア殿下の親衛隊であるザロたちと共に夕食をとっていた。

いつもなら自室で一人、味のしない食事を機械的に胃に流し込む時間だ。

だが今日は、私の足が自然とこの賑やかな食堂へと向かっていた。

口に運ぶ肉の脂が甘く、麦の粒の食感が心地よい。

舌の上で味が広がり、胃に落ちていく感覚が、確かに私を満たしていく。

ザロが木の杯を置き、口元を布で拭った。

「いやはや、今日のリリス様のお働きには感服いたしました。今後もこうしてリリス様と一緒に御飯できると、配給の飯も美味しくなりますな」

ザロが顔をほころばせ、冗談めかして言った。

周囲の騎士たちも同調し、軽い笑いが広がる。

「ありがとう、ザロ。私も皆様とこうして卓を囲めるのは嬉しいわ」

私は杯を手に取り、中の水を一口飲む。

「また時間が空いた時には、必ず一緒に食事をしましょう」

声は高く、弾んでいた。

騎士たちは一斉に頭を下げ、顔を上げて破顔する。

彼らの視線には、私への純粋な敬意と親愛の色が宿っていた。

私を守ってくれる人たちがいる。

領地のために汗を流し、私に微笑みかけてくれる人たちがいる。

胸の奥から温かいものが湧き上がり、指先まで満ちていく。

ただ十銀貨を支払うだけで、この完全な安らぎと喜びが手に入るのだ。

これが幸せというものなのだと、私は視線を落として小さく息を吐いた。

食事が終わり、騎士たちがそれぞれの持ち場へ戻っていく。

私は自室へ戻る廊下で、少し離れて付き従っていたナミスを呼び止めた。

「ナミス、少し時間があるかしら」

私は足を止め、振り返る。

廊下の壁掛け燭台の光が、彼の栗色の髪を照らしていた。

「はい、リリス様。何かご用命でしょうか」

ナミスは二歩手前で立ち止まり、深く頭を下げる。

私は彼に近づき、声を潜めた。

「明日のことよ。午後の書類整理が終わったら……一緒に領地を回ってくれないかしら」

「視察、ですか」

「いいえ」

私は首を振り、ナミスの目を見つめる。

「デートよ。二人だけで、街を歩きたいの」

ナミスの目がわずかに見開かれる。

彼の視線が私の顔から逸れ、床へと落ちた。

「……承知いたしました。護衛として、お供いたします」

「ただ歩くだけよ。美味しいものを探したり、新しいお店を見たり」

私は両手を組み合わせ、胸の前で握りしめる。

「ねえ、ナミス。十銀貨で、こんなにも幸せな一日を買えるなんて、本当に奇跡だと思わない?」

私の言葉に、ナミスの肩が微かに動いた。

彼はゆっくりと顔を上げる。

その瞳の奥には、濁った感情が渦巻いているのが見えた。

「僕は……どんなリリス様のことも素敵だと思います。ですから、どうか無理はなさらずに」

ナミスの声は低く、平坦だった。

眉がわずかに寄り、唇の端が下がっている。

ナミスの言葉に、私は首を傾げる。

彼が何を懸念しているのか、今の私には理解が及ばなかった。

「無理なんてしていないわ。私は今、本当に気分が良いの」

私は笑顔のまま彼に背を向け、自室への扉に手をかけた。

扉を押し開け、部屋の中へ入る。

机の上には、残りの薬が入った硝子瓶が置かれている。

私は瓶の前に立ち、中にある六錠の薬を見下ろした。

鈍い金色の錠剤が、ランプの光を反射している。

朝に一粒飲んでから、すでに半日以上が経過している。

思考はまだ鮮明で、不安や恐怖の影はどこにもない。

視界も明るく、体の重さも感じない。

「明日の朝には、どうなっているかしら」

私は瓶の横に置かれた白紙の束を指先でなぞる。

一日一粒と医者は言った。

ならば、あえて明日の朝は薬を飲まずに過ごしてみよう。

この奇跡のような幸福感が、どれほどの時間持続するのかを知っておく必要がある。

薬の効果が切れた時、世界が再び色を失うのか。

それとも、この温かい感覚が少しは残るのか。

私は椅子に腰を下ろし、両手を膝の上に置く。

心拍は穏やかで、呼吸は深い。

この満たされた状態が一日でも長く続くことを願いながら、私は静かに目を閉じた。