罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

太陽の光が広場の石畳を白く照らし出していた。

土埃に塗れた労働者たち、手足を失い力なく座り込む元兵士たち、そして不安な顔で寄り添う家族たちが、無秩序に集まっている。

リリスは静かに壇上へと足を踏み入れた。

足音が木の板を打つたび、周囲のざわめきが波が引く静まっていった。

彼女の背筋は真っ直ぐに伸び、桜色の長髪が微風に揺れる。

今は薬の効力により一切の淀みもない真実の慈愛を帯びた微笑みが浮かんでいた。

薬がもたらす高揚感は、彼女の目に映る世界を極彩色に染め上げている。

群衆の汚れた衣服の綻びも、疲労に歪む顔も、今のリリスには愛すべき領地の一部、自らの手で完成させるべき美しい絵画の構成要素として認識されていた。

「皆様、日々のご尽力、心より感謝申し上げます」

澄み渡った声が広場の隅々にまで響き渡る。

リリスはゆっくりと視線を巡らせ、最前列で息を呑む者たちと目を合わせた。

「このガーナー領は、皆様の流す汗が、新しい街の礎となっているのです。昨日までの悲しみは、明日への希望へと変わる過程に他なりません」

彼女の言葉は、緻密に構成された旋律を奏でる。

言葉の端々に力強さと哀れみが同居し、聞く者の心を縛り付けていく。

「同時に、私は心を痛めております。怪我や老いにより、かつてのように働くことの叶わない方々が多数おられる現実を」

リリスは目を伏せ、長い睫毛の影を頬に落とした。

悲痛な表情を作り出す筋肉の動きすら、今の彼女には快楽を伴う遊戯だった。

リリスは声のトーンを少し落とし、真剣な眼差しで領民たちを見渡した。

「中には、怪我や病、あるいは年齢によって、以前のように働けない方々もいらっしゃいます」

群衆の一部が、不安そうに身じろぎをする。

「だからこそ、私は皆さんにお願いしたいのです。働けない者たちを、領地という無機質な制度に任せるのではなく、血の繋がった子供たち、親戚、そして親しい友人たちの手で支えてあげてください。それこそが、本来の家族の在り方、人と人との絆の美しさではありませんか?」

リリスの問いかけに、何人かが深く頷く。

「誰かに頼るのではなく、自らの手で大切な人を守り抜く。その誇り高い精神こそが、この領地を真に豊かなものにします。私は、そのために自立して働く皆さんを、全力で支援いたしますわ」

福祉の切り捨てという冷酷な現実を、家族愛と自己責任という美しい大義名分で包み込んだ。

安い労働力をこの地に繋ぎ止め、経済を回し続けるための、完璧な論理のすり替え。

冷酷な現実を、彼女は無償の愛と絆という輝かしい布で包み込んで差し出した。

家族のいない者、友に見捨てられた者がどうなるかという事実を隠蔽し、労働力を持つ者への心理的重圧へとすり替えた。

リリスは両手を広げ、未来を指し示す。

矛盾のない経済政策、労働意欲を掻き立てる報酬体系。

それらを流れるように語るリリスの姿は、領民たちの目に救済者として焼き付いていく。

初めは不満や不安を抱えていた者たちの顔つきが変わっていく。

唇の端が上がり、目に熱が宿る。

自分たちが歴史的な復興の立役者であり、この美しい公爵令嬢に導かれているのだという陶酔が広場全体を覆い尽くした。

拍手が鳴り始める。

最初はまばらだった音が、やがて地鳴りのような歓声へと変わった。

「リリス様、万歳」

誰かが叫んだ。

その声は連鎖し、波となって壇上のリリスへと押し寄せる。

ナミスは広場の片隅の建物の陰に立ち、熱狂する群衆と、その中心で光を一身に浴びるリリスを見つめていた。

彼の栗色の瞳は微動だにせず、ただ一つの真実だけを映し出している。

あの完璧な演説、寸分の狂いもない人心掌握術。

それはリリスが本来持っていた恐るべき才覚に他ならない。

しかし、その才覚を引き出し、彼女を輝かせているのは、出所不明の怪しげな薬だ。

彼女の指先が優雅に宙を舞うたび、ナミスの胸の奥で鋭い痛みが走る。

群衆の歓声が大きくなるほど、彼の内側は静まり返り、冷たい絶望が沈殿していく。

僕の主君は、自らをすり減らし、偽りの幸福に依存することでしか、この世界に立つことができない。

そして僕は、それを止めることができない。

リリスの視線が、不意にナミスのいる暗がりへと向けられた。

光に満ちた瞳が彼を捉え、唇がわずかに動く。

言葉は声にならなかったが、ナミスにははっきりと読み取れた。

「私は今、最高に幸せよ、ナミス」