罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

王宮の執務室、夜の静寂を蝋燭の揺らめきだけが照らし出していた。

カシリアは、羊皮紙に向かい、羽根ペンを走らせていた。

リリスへの手紙。

それは本来、愛を囁くものであるべきだが、今の彼にとっては、最も高度な政治的文書であり、そして最も残酷な虚構の構築作業であった。

『親愛なるリリスへ』

書き出しは、いつも通り滑らかだ。

『王都は今、ラペオ帝国のコリンダ王子の来訪により、かつてない緊張と熱狂に包まれている。だが、安心してほしい。全ては君の予見通りに進んでいる』

カシリアは一度手を止め、深いため息をついた。

予見通り。

確かに、コリンダの挑発、武力の誇示、それらはリリスがガーナー領へ発つ前に残した予測と完全に一致していた。

彼女の知性は、遠く離れた地にあってもなお、王都の政局を支配している。

だが、唯一つ、彼女のシナリオにない異物が混入していた。

エリナだ。

『コリンダ王子との模擬戦が行われた。我が国からは、君の提案通り、学生の中から代表を選出した』

ここでペン先が微かに震え、インクが小さな染みを作った。

リリスは「優秀な男子生徒」を推薦していたはずだ。

だが、実際に舞台に立ち、帝国王子を打ち負かしたのは、あの天真爛漫な異母姉だった。

これをどう説明する?

エリナの実力を認めれば、リリスは傷つくか?

それとも、自分がエリナを重用していると悟られるか?

カシリアは数秒の葛藤の末、最も安易で、そして最もリリスを侮った「嘘」を選択した。

『運命の悪戯というべきか、くじ引きのような偶然によって、あのエリナ嬢が選ばれてしまった。……心配しないでくれ。彼女は無作法ではあるが、奇跡的な運によって勝利を拾い、我が国の面目を保ってくれた』

運。

あの圧倒的な身体能力と、型破りな戦闘センスを、「運」という一言で片付けた。

そうしなければ、リリスの完璧なプライドを守れないと判断した。

『君の描いた未来図は完璧だ。……早く会いたい』