罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

翌朝の王家学院は、嵐の前の静けさとは異なる、異質な緊張感に包まれていた。

正門をくぐり抜けたのは、ラペオ帝国の第三王子、コリンダであった。

昨日の無様な敗北などなかったかのように、彼は悠然と廊下を歩く。

だが、その瞳に宿る光は、以前の傲慢な覇気とは質が異なっていた。

瞳は血走り、飢えた獣のような輝きを帯びている。

すれ違う生徒たちが怯えて道を空ける中、コリンダは鼻を鳴らした。

屈辱は、猛毒のように彼の内臓を焼き尽くしていた。

股間に残る鈍痛と、砂を浴びせられた屈辱的な記憶。

そして何より、あの女――エリナ・タロシアが放った、無邪気で残酷な「助言」が、脳内で反響し続けている。

『次はもっとうまく守ってね』

あれは慈悲ではない。

完全なる捕食者が、取るに足らぬ獲物へ向ける憐憫だ。

「……舐めるなよ、女」

コリンダは低く唸った。

帝国の王子たる自分が、あのような小娘に憐れまれたままで終わるはずがない。

殺すのではない。

それでは足りない。

あの無垢な笑顔を恐怖で歪ませ、その口から許しを請う言葉を吐かせ、自分の足元に這いつくばらせて初めて、この渇きは癒やされるのだ。

これは復讐であり、そして歪んだ求愛の始まりでもあった。

昼休み、中庭の芝生の上で、エリナは車座になって昼食を摂っていた。

彼女の周りには、遠巻きに様子を伺う生徒たちの視線があるが、本人は気にする様子もなくパンを齧っている。

そこへ、コリンダが影を落とした。

「おい、女」

威圧的な声に、エリナは顔を上げ、口元についたパン屑もそのままに、ぱっと笑顔を咲かせた。

「あ!王子様!体はもう大丈夫なの?」

その反応に、コリンダの頬が引きつった。

恐怖も警戒もない。

まるで昨日の決闘が、ただの遊びであったかのような態度。

コリンダは彼女の前に立ち塞がり、見下ろした。

「勘違いするな。昨日はオレが油断しただけだ。……貴様のその汚い戦法さえなければ、オレが勝っていた」

「うんうん、そうだね!油断大敵だね!」

エリナは素直に頷いた。

「……ッ」

言葉が通じない苛立ちと、それでも揺らがぬ彼女の瞳の強さに、コリンダの背筋に奇妙な熱が走る。

この女を屈服させたい。

その澄んだ瞳を濁らせ、自分だけを映す鏡に変えたい。

「逃げるなよ、エリナ。……オレは貴様を逃がさん。必ず貴様のその自信をへし折り、オレのものにしてやる」

それは宣戦布告であり、所有宣言だった。

だがエリナは、きょとんと首を傾げた。

「え?逃げないよ?また手合わせしたいなら、いつでもいいよ!」

噛み合わない会話。

しかし、コリンダはその無理解さえも、これから染め上げるための余白だと解釈し、獰猛に口角を吊り上げた。

「いいだろう。……精々、その余裕を楽しんでおくんだな」

執務室の窓からその様子を見下ろしていたカシリアは、重いため息をついた。

事態は、予想の斜め上を行く形で進行している。

リリスの描いたシナリオでは、コリンダは敗北によってメニアの武威を知り、撤退するか、あるいは敬意を払うはずだった。

だが現実は、野獣の執着心に火をつけてしまったようだ。

「……厄介なことになったな」

カシリアは眉間を揉んだ。

コリンダの執着は、明らかに政治的な駆け引きを超えている。

あれは男としての、オスとしての征服欲だ。

そして、その対象であるエリナは、あまりにも無防備すぎる。

彼女は自分が猛獣の檻の中にいることすら理解していない。

リリス。

君はこれも予見していたのか?