罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

祭りの朝。初夏の風が頬を撫でるが、その感触さえも今は肌を逆撫でするような不快感しか生まない。

視線の先には、色とりどりの旗がはためき、祭りの準備に沸く領民たちの姿がある。

木槌の音、子供たちの歓声、屋台から漂う香辛料の香り。

全てが輝き、生命力に満ちていた。

その眩しさが、リリスの目を焼き、脳裏にある暗い計画の影をより一層濃く浮かび上がらせる。

「……素晴らしい景色ですね、リリス様」

車椅子の上のナミスが、眩しそうに目を細めて呟いた。

痩せこけた頬には、久しぶりに赤みが差している。

「ええ。……皆、とても楽しそうですわ」

リリスは唇の端を吊り上げ、完璧な微笑みの形を作った。

その表情筋の一つ一つが、まるで錆びついた鉄線で操られているかのように強張り、引きつるのを覚える。

彼女が見ているのは、幸福な祭りの準備ではない。

まもなく訪れる、紅蓮の炎と、阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

この笑顔の下で、彼女は既にマッチを擦り続けている。

「こうして風を感じることができるのも、全て貴女と……カシリア殿下のおかげです」

ナミスは膝の上に置いた自分の手を、愛おしそうに見つめた。

その手はまだ震えているが、そこには確かな希望が宿っている。

「私のような、一度は死にかけた人間に……殿下は過分な慈悲をくださり、貴女はこうして希望を与えてくださった」

彼は車椅子を止めさせ、振り返ってリリスを見上げた。

その瞳は、一点の曇りもない鏡のように、リリスの顔を映し出す。

そこには、聖女のように美しい、けれど中身の空っぽな人形が映っていた。

「お二人のご婚約、心より祝福申し上げます。……貴女のような慈愛に満ちた方が、次代の国母となられる。この国は、なんと幸福なのでしょうか」

純粋な、あまりにも純粋な称賛。

それは鋭利な楔となって、リリスの心臓に打ち込まれた。

慈愛?国母?幸福?

違う。

貴方が見ているのは幻影だ。

私は、貴方の父を欺き、貴方の領地を焼き払い、貴方の信じる正義を踏みにじろうとしている魔女だ。

カシリア殿下もまた、私に嘘をつき、別の女性、私の姉に心を奪われている。

私たちの間に「愛」などという美しいものはなく、あるのは欺瞞だけ。

「……過分なお言葉ですわ、ナミス」

リリスの声が微かに震えた。

それを感動によるものだと勘違いしたナミスは、さらに優しく微笑む。

「いいえ、真実です。私は生涯、この感謝を忘れません。……私の剣が再び振るえるようになったその時は、必ずや貴女と殿下のために、この命を捧げましょう」

やめて。

その綺麗な言葉で、私を刺さないで。

貴方の忠誠を受け取る資格など、私にはない。

胃の腑が裏返るような吐き気に襲われながら、リリスはナミスの肩に手を置いた。

「……期待していますわ、ナミス」

口から出た言葉は、心とは裏腹に甘美な響きを持っていた。

舌の上で、鉄の味がした。

心の中で血を吐いているのだ。

この優しい青年を、私はこれから地獄の底へ突き落とす。

彼の「感謝」を、「絶望」へと変える。

それが、私が選んだ道。

生き残るための、そしてカシリア殿下の隣にしがみつくための、唯一の手段。

「さあ、もう少しあちらへ行ってみましょうか。……屋台の飾り付けが綺麗ですこと」

リリスは逃げるように車椅子を押し出した。

車輪がカラカラと回る音が、まるで断頭台へ続く階段を上る足音のように、虚しく響いた。

この穏やかな時間は、これが最後だ。

次に彼が私を見る時、その瞳には軽蔑と憎悪が宿っているだろう。

それでもいい。

いや、そうでなくてはならない。

私は悪役令嬢。

誰からも愛されず、誰をも傷つけ、孤独という名の王座に座る女。

「夜になると、祭りが始まりますね」