罪人令嬢は、二度目の人生でも幸せになれない~誰にも愛されていないと信じたまま、私はまた笑う~

ガーナー領。

『お前が王太子の婚約者に相応しいか、その泥の中から証明してみせろ』

『できなければ、野垂れ死ね』

王の冷酷な嘲笑が、耳元で聞こえるようだった。

「……リリス様?」

ガロスの声が遠くに聞こえる。

リリスは顔を上げ、完璧な微笑みをガロスに向けた。

その笑顔は、陶器のように滑らかで、一切の亀裂を見せない。

「ご安心ください、ガロス卿。十分な支援金は、まもなく届く手はずとなっております」

彼女の声は、春の小川のように穏やかだった。

嘘だ。

喉の奥で、毒のような苦味が広がる。

だが、真実を告げればどうなるか。

この善良な老人はパニックに陥り、領民たちに不安を伝染させ、明日にも暴動が起きるかもしれない。

あるいは「陛下の意思」だと知れば、王家への不信感が芽生え、カシリア殿下の立場を危うくする。

どちらも避けねばならない。

カシリア殿下の愛も、王の冷徹な計算の前には無力だった。

この場を収めるためだけの、甘く致死的な嘘を吐く。

ガロスはリリスの言葉を疑うことなく、破顔して手を打った。

「おお!さすがはリリス様、そしてカシリア殿下!これで民たちも安眠できますな!」

「ええ。……ですから、領地の詳細な運営権を、一時的に私に預けていただけますか?資金の配分を最適化するために」

リリスはすかさず切り込んだ。

「もちろんですとも!私のような武骨者より、聡明なリリス様にお任せした方が安心です」

ガロスは二つ返事で承諾した。

彼の無防備な信頼が、今は都合が良いと同時に、リリスの良心を鋭く抉る。

リリスは一礼して執務室を後にした。

廊下に出た瞬間、笑顔が剥がれ落ち、能面のような冷たさが張り付いた。

もう、後戻りはできない。

善意だけでは誰も救えない。

「……ならば、奪うしかありませんわ」

リリスは独りごちた。

この停滞した土地から、富を、未来を、無理やりにでも搾り出す。

そのためには、ガロス卿の「善意」という名の癌を切除し、血を流す改革を行わねばならない。

綺麗なままではいられない。

泥を被り、恨まれ、それでも結果を出す。

それこそが、王太子の隣に立つために課された、血塗られた試練なのだから。

自室に戻ったリリスは、羊皮紙を広げ、震える指を抑えつけてペンを走らせた。

宛先は、父カスト・タロシア公爵。

『お父様。ガーナー領の治安維持のため、信頼できる騎士を数名、私のもとへ派遣してください』

理由は書かない。

リリスは書き終えた手紙を封蝋し、ザロに託した。

「最速で届けて。……誰にも見られないように」

ザロは短く敬礼し、影のように姿を消した。

これで「武力」の手配は済んだ。

次は「知恵」だ。

この腐敗した善意の園を焼き払い、更地にするための、冷徹な知恵が必要だ。

リリスの脳裏に、一人の男の顔が浮かんだ。

カシリア殿下の影。

私を救い、傷ついた騎士。

ナミス・ガーナー。