冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 そのころ、優月はというと、目を開けていた。
 寝返りを打ちながら、ヴォーグの昔話を思い出す。
 かなり闇の深い話ではあった。大事な人と、心を分け合っていただけなのに、無慈悲に奪われて哀しかっただろう。辛いなんてものでは表現しきれないほど、どうしようもなかったはず。そんな中、たった独りきりで生きてきて、誰にも頼ることをしてこなかった。とても孤高で、けれど儚くも見える。あんなに強いのに、心はどうしようもないほど痛みがあるはずなのに、それを一切表に出さない。弱音を、吐くこともしない。事実は話してくれるけれど、本当の胸の内はなんというか、よく分からない。また、聞いてみよう。
 優月はそんなことを思いながら、瞼を閉じた。

 それから数日後、他愛のない話をしていていた二人。それはまるで、いつ話を切り出そうかと、お互いに悩んでいるようでもあった。
 口火を切ったのは、優月だった。
「ねぇ、ヴォーグ。どうしても、気になってることがあって」
「なんだ?」
 ヴォーグは気安く、声を出す。
「ヴォーグの心の中が、見たい。どんなに時間がかかってもいいから、話してくれないかな……?」
 遠慮がちに、優月が尋ねる。
「人より闇ばかり見てきているし、持論だが構わねぇか?」
 ヴォーグは、低い声で言う。
「うん!」
 優月は思わず、笑顔になった。

 * * *

 ヴォーグはずっと独りで生きてきたと、思い込んでいた。でも違った。師から生きる術を教わり、友に支えられ、想い人から愛を知って。心が引き裂かれるような別れを、三度も経験して。感情をあらわにしていたら、心がどうしようもなくなると思い、冷静という名の仮面を被って。心の痛みと物理的な痛みには、大分鈍くなった。心を凍らせて生きるしかなく、誰にも頼らないと誓いを立てたほどだ。
 しかし、それはあまりにも過酷で、辛い道ではあった。咎人である以上、過去という名の鎖を解くわけにも、逃げるわけにもいかなかったから。とっくに限界など越えていたが、この問題には誰も、巻き込んではいけない。使命感にも似た、思いがあったのだ。そんな真似を長年していれば、感情の麻痺は避けられない。いつの間にか苦しさも辛さも、感じなくなった。
 これでいいと思ってしまったヴォーグは、さらに辛い道へと踏み込んでいく。数多くの人を殺しながら、多くの痛みを経験してもなお、止まることが一切なかったのだ。それはのちに、止まって考え込むことを拒絶していただけ、だと分かるのだが。〝何の犠牲もなしに得られるものなど、まやかしに、霞に過ぎない〟この言葉はヴォーグが常に頭に置いている言葉で、ヴォーグが犠牲として差し出しているのが、感情と戦闘によってできる、怪我の数々。つまり痛みである。