冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「俺はこれが気に入っていて。白い方は、買ってこないだけなんだが」
 目を丸くした優月が可愛いと思いながら、ヴォーグは苦笑を浮かべる。
「へえ。お酒は飲んだことないのだけれど」
「そうか。もし一緒に呑めたら、楽しそうだな」
「あたしは別に、酒が好きなわけじゃないよ?」
「それもそうだな。くくっ」
 変わった笑い方をする、ヴォーグであった。
 
 それから他愛のない話をしている二人の耳に、玄関のチャイムが聞こえてくる。
 顔を見合わせた後、ヴォーグが玄関に向かう。
「誰だ?」
「やあ。届けにきたよ。要らないのもらえるかい?」
 そこにいたのは野々宮だった。右手に風呂敷を持っている。
「驚いたな。とにかく入れよ」
 ヴォーグは野々宮を招き入れる。
 自室へと通したヴォーグは、風呂敷を受け取る。
 空いている抽斗にそれぞれを収めると、風呂敷を畳んで返す。
「いつも贔屓にしてくれて助かるよ」
 野々宮が微笑む。
「いい仕事してくれているからな。俺の方も助かっているんだ」
 ヴォーグは言いながら、切れて使い物にならないボロボロの服一式が入った布袋を渡す。
 空の新しい布袋を箪笥の近くに置く。
「確かに。お嬢ちゃんにも会っていいかい?」
「もちろんだ」
「ゆ……」
 ヴォーグは優月に声をかけようとして、言葉を切る。
 優月は腹に毛布をかけて眠っていた。
 野々宮に目で告げて二人で部屋を出る。
 
「長話していたし、疲れたのかもしれない」
 申しわけない、とヴォーグが言う。
「いいさ、今日じゃなくてもいいんだし。それで? 足はどうなんだい?」
「もう少しで歩けるそうだが、本人はかなり勇気のいることだろうな」
「……だろうねぇ」
「まあなにかあれば、俺も様子を見ておく」
「頼んだよ」
 野々宮はそこまで告げると洋館を出ていった。

 ヴォーグはワイン関連のものを自室に引き上げて、煙管を手に取る。
 火をつけて椅子に腰かけ、深く息を吐き出す。
 ――今回はずいぶんと長話になってしまったな。話したことに後悔はない。
 だが、その話をしていて思ったことがある。
 優月には言えなかったが、俺は未だに死んだツォルのことが忘れられていない。そしてキューリのことも、師のことも。大事な人間の死はどれほど経っても、記憶に残るものなのだろうか。愛し愛されていたあの当時のことが、カラフルに蘇ってくるのだ。
 そして俺はおそらく、この想いをきれいさっぱり、忘れるという真似はできない。どう頑張っても、それだけはできない。
 この想いを、過去を抱えたままでも、優月はいいと言ってくれるだろうか。照れくさいが先に立つが、言ってみなければ分からない。
 そんなことを思いながら、ヴォーグはぼうっとしていた。