冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 陽の国行と書かれた武装船は、他の船に比べて小さめだった。
「ここから陽の国までは、どれくらいかかる?」
 船の乗り口にいる男に尋ねる。
「四日くらいかね? 陽の国にいきたいなんて、正気かい?」
「どういうことだ?」
「ってことはなにも知らないのかー。あんたがいこうとしてる陽の国は、今二分するほどの勢力が、鬩ぎ合ってる状態なんだよ。命が惜しいなら、そこじゃなく別のもっと、安全な国をおススメする」
 ヴォーグはその言葉を受け考え込む。
「自衛はできるし、それくらいの国なら見てみたい。乗ってもいいか?」
「あんた、相当な変わり者だな……」
 男が言いながら、入るように促した。
 船に乗ってしばらくして、出航の汽笛が聞こえてきた。

 ヴォーグは流れゆく雲を眺めて思う。
 ――俺のしてきたことはなにをしても消えないし、この業が軽くなることなどありはしないのだろう。地獄に送った者も、惜しまれながら死ぬしかなかったあの三人にも、こんな空が見えているのだろうか。俺はお前達のことは決して忘れない。俺はこの稼業から手を引くつもりもない。誰かのために、俺は人を殺す。それはきっと幾年経っても、泡のように湧いてくるものだと思うから。いくら平和になろうがそうじゃなかろうが、その想いだけはきっと在り続けていると思う。せめて目の前のことにしか手を貸せないが、俺が動くことで、負の連鎖に取り込まれる者が減るのであれば、それ以上のことはない。俺はもう、自分のためには生きられない。こんな自分を消したくても、消せなかったのだから。悩み、自問自答しながら、依頼のたびに傷つきながら、独りで何とか生きていくよ。なあ、お前ら三人に言いたいことがある。俺にかけがえのない想いを、友情を、愛を教えてくれて、ありがとう。宝物をたくさんくれて、大事にしてくれて、ありがとう。これからなにがあっても、お前らのことは忘れない。お前らは、俺の中で生きているんだもんな。だから、ともにいこう。地獄だろうがなんでも構わねぇ。お前らといればきっと、大丈夫だ。本音を言えば、もっとお前らと話をしておけばよかったなぁ。
 ヴォーグは視界がうっすらと滲む中、かつての地に別れを告げた。
 
 四日後、陽の国の港に着いたヴォーグが目にしたのは、荒んだ空気と、剣劇の音だった。
 様子を見るために船を降りるや、その様子を見ていた男達が、包丁や鉈などを片手に、立ちはだかる。
「異国人風情が、なにをしに?」
「それ、貴様らに言うことじゃねぇよな? この国はそこから違うのか」
 ヴォーグは冷ややかな声で告げる。
「今は鎖国派と開国派で戦ってる最中なんだ! 異国民が邪魔をしないでもらいたい!」
「ただ、様子を探りにいくだけなんだが。面倒だな、仕方ない」
 ヴォーグは腰に装備していたりヴォルバーを左手に構え、四回引き金を引く。
 なにが起こったのかわからぬままの連中を見ながら、全員を始末すると歩き出したのだった。