冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「……分かったよ。でも今は、お前の傍にいさせてくれ」
「もう、寂しがり屋なんだから……」
 ツォルは言いながら、右手を上げてそうっと、ヴォーグの頬に触れる。
 お互いに涙を流している。
「ねぇ、ヴォーグ。こんな女を本気で愛してくれて、ありがとう。宝物をいっぱいいっぱい、くれて、ありがとう。……さようなら、最愛にして初恋の人……」
 そこまで言ったツォルに、口づけを落とすヴォーグ。
 ツォルの右手から力が抜けてもなお、身体が冷たくなってもなお、ヴォーグはその場から動かなかった。
 
 それからしばらく経ち、ツォルの骸を見つめて、ヴォーグはぐいっと涙を拭い、立ち上がる。
 先ほどまで哀しみに満ちていたとはとうてい思えない、冷ややかで暗い目をしていた。
 
 司令部を出たヴォーグが目にしたのは、夜であるにもかかわらず、大量の兵達が一般人を虐殺しているところだった。
 あの元帥は、に歯向かう者の掃討を命じていたらしい。
 呆れてものも言えないとは、まさにこのこと。
 ヴォーグは無言でリヴォルバーを構え、兵達を殺し始めた。
 夜は前線にて戦い、昼間は日が入ってこない場所から、ライフルで狙撃。確実に頭数を減らしていく。
 掃討が始まって丸一日で一般人は全滅。ボロボロの軍の連中はたった一人を探して殺すことに躍起になっていた。

 二日目の夜、リヴォルバーを構えて、兵達の前にあらわれたヴォーグ。
 その上半身は、斬り傷に塗れていた。鮮血がぽたぽたと滴って、止まらないのも一切気にせず、襲い掛かる。
 あっという間に兵全員を(みなごろし)にしたヴォーグは、そこで初めて空を見上げる。
 美しい満月だった。
 こんな鮮血と闇に塗れた俺が生きているだけでも、まるで月だけはそれすらも、受け容れてくれそうな気がした。
 ヴォーグは壊滅した国をボロボロの身体のまま、立ち去った。
 
 ヴォーグは傷の止血を隣町の診療所で行い、旅の者だと言って行き先を探していると告げる。
「近場? それとも遠いところ?」
「遠ければ遠い方がありがたいな」
「なら、陽の国はどう? ここからだと船に乗るけど」
「陽の国? どんなところだ?」
「詳しくは分からないけど?」
「まあいい。いってみるさ。金はこれしか持っていないのだが」
 ヴォーグは滅ぼした国で使っていた金貨を差し出す。
「これはっ! 幻の金貨じゃないか⁉」
「は?」
 ヴォーグは首をかしげる。
「その国でしか流通していないはずだったけどな。あ、硬貨コレクターなもんで」
「喜んでくれるならなによりだ。いい情報も手に入ったし、俺はこれで」
「よい旅をー!」
 片手を上げたヴォーグは陽の国に向かう船に乗るべく歩き出した。