「ああ。虫よけや埃よけになるんだそうだ。これは天蓋つきのベッドと言ってな」
「へえ。確かに寝心地よかったけど、あたしなんかがいいのかな……」
「俺にこのベッドは似合わねぇし。ちょうど余ってて困っていたから、使ってくれ」
「まあ、悪いわけじゃないし……。使わせてもらうわ」
ヴォーグの言葉に、優月はうなずいた。
「そろそろいこうか」
「うん」
ロングコートですっぽり隠れた優月は、ヴォーグに抱き上げられて洋館を出た。
治療を終えたあと、行きたいところがあるというので、うなずく優月。
連れてこられたのは、小さな洋服店。
「俺の服もここで、仕立ててもらっている」
ヴォーグは言いながら、ノッカスと店の名が書かれたガラス戸を三度ノックする。
「はいはい! あら、ホーエンツォルの旦那! 女性連れなんて初めてじゃない!」
その様子を見た女達が、騒ぎ出す。
「勝手に色めき立つんじゃねぇよ。優月に新しい着物を数着と、下駄をいくつか見繕ってくれないか?」
ヴォーグは溜息混じりに言い放ちながら、要望を口にする。
「お任せください! ささ、中へどうぞ!」
ヴォーグに抱かれたまま、優月は身体を縮こまらせる。
「それと、女将はどこだ?」
「ここにおりますよー」
奥から声がした。
「上がらせてもらう」
ヴォーグは靴のまま優月とともに奥へ向かう。
「おや、ホーエンツォルの旦那」
そこにいるのは椅子に座った初老の女――野々宮だった。
「店での話、聞こえていたか?」
野々宮はうなずく。
「ここに来て、ずっと怯えている」
「どこで出会ったんだい?」
「俺の家の近くの広場でな。男達にボコボコに殴られていたところを、助けた」
「歩けないってこと?」
「裸足で逃げていたようでな。しばらく歩くな、と医者に言われている」
「そうかい。……お嬢ちゃん、ここにはあんたを傷つけようとする者は、誰一人としていない。そんなに怯えなくても、大丈夫」
「……聞きたいことがあるの」
それまで黙っていた優月が、口を開く。
二人の優しい眼差しを受け、優月はゆっくり話し出した。
「どうして、あたしに優しくしてくれるの? もっと言えば、どうしてあたしなんかのために? お礼なんてできないのにさ。なんでなの? あたしは……人以下なんだよ?」
それは優月の中で、ずっと引っかかっていたことだった。
その言葉を聞いた、野々宮とヴォーグは顔を見合わせる。
「優月。お前はもしや、生きるために自分は人以下だと、自分に呪いのようなものをかけたのか?」
低い声で尋ねるヴォーグの顔は、真剣そのものだ。
「ちょっと違う。殴られ続けて〝お前は人じゃない。人以下だ。おれらよりも弱いくせに〟って言われ続けて。痛みとともにあたしは人以下なんだ、って思うようになっちゃった……」
優月が震える声で、告げる。
「へえ。確かに寝心地よかったけど、あたしなんかがいいのかな……」
「俺にこのベッドは似合わねぇし。ちょうど余ってて困っていたから、使ってくれ」
「まあ、悪いわけじゃないし……。使わせてもらうわ」
ヴォーグの言葉に、優月はうなずいた。
「そろそろいこうか」
「うん」
ロングコートですっぽり隠れた優月は、ヴォーグに抱き上げられて洋館を出た。
治療を終えたあと、行きたいところがあるというので、うなずく優月。
連れてこられたのは、小さな洋服店。
「俺の服もここで、仕立ててもらっている」
ヴォーグは言いながら、ノッカスと店の名が書かれたガラス戸を三度ノックする。
「はいはい! あら、ホーエンツォルの旦那! 女性連れなんて初めてじゃない!」
その様子を見た女達が、騒ぎ出す。
「勝手に色めき立つんじゃねぇよ。優月に新しい着物を数着と、下駄をいくつか見繕ってくれないか?」
ヴォーグは溜息混じりに言い放ちながら、要望を口にする。
「お任せください! ささ、中へどうぞ!」
ヴォーグに抱かれたまま、優月は身体を縮こまらせる。
「それと、女将はどこだ?」
「ここにおりますよー」
奥から声がした。
「上がらせてもらう」
ヴォーグは靴のまま優月とともに奥へ向かう。
「おや、ホーエンツォルの旦那」
そこにいるのは椅子に座った初老の女――野々宮だった。
「店での話、聞こえていたか?」
野々宮はうなずく。
「ここに来て、ずっと怯えている」
「どこで出会ったんだい?」
「俺の家の近くの広場でな。男達にボコボコに殴られていたところを、助けた」
「歩けないってこと?」
「裸足で逃げていたようでな。しばらく歩くな、と医者に言われている」
「そうかい。……お嬢ちゃん、ここにはあんたを傷つけようとする者は、誰一人としていない。そんなに怯えなくても、大丈夫」
「……聞きたいことがあるの」
それまで黙っていた優月が、口を開く。
二人の優しい眼差しを受け、優月はゆっくり話し出した。
「どうして、あたしに優しくしてくれるの? もっと言えば、どうしてあたしなんかのために? お礼なんてできないのにさ。なんでなの? あたしは……人以下なんだよ?」
それは優月の中で、ずっと引っかかっていたことだった。
その言葉を聞いた、野々宮とヴォーグは顔を見合わせる。
「優月。お前はもしや、生きるために自分は人以下だと、自分に呪いのようなものをかけたのか?」
低い声で尋ねるヴォーグの顔は、真剣そのものだ。
「ちょっと違う。殴られ続けて〝お前は人じゃない。人以下だ。おれらよりも弱いくせに〟って言われ続けて。痛みとともにあたしは人以下なんだ、って思うようになっちゃった……」
優月が震える声で、告げる。
