冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 ヴォーグは、口端を吊り上げて嗤う。
「死者がなにを望むかなど分かりようもない。復讐なんぞしないで、想い人と生きるのは? それが望みなら、この場から立ち去ればいい」
「くっ……」
 ヴォーグは美しい顔を苦悩に歪める。
「ここで死んでも構わない! お願いだから、ヴォーグのやりたいようにして! あなたの足枷にだけは、なりたくない!」
 その言葉でハッとしたヴォーグ。ついツォルに視線を走らせる。
 その顔をしかと見つめてから、元帥を睨む。
「復讐を果たす。そうでなければ、前に進めない」
「愚かな男だ」
「なんとでも言え」
 ヴォーグが、口端を吊り上げて嗤う。

「はあっ!」
 気迫のこもった一撃を腹に受けつつ、ヴォーグのリヴォルバーが火を噴く。
「ぐううっ!」
 両肩を撃ち抜かれた元帥は、苦痛に顔を歪める。
 それでも、剣から手を離さない。
 さらに二発撃ち、両腕を撃ち抜くと元帥の手が離れた。
 ヴォーグは抉られた腹を一瞥しつつ、剣を抜いて元帥の足元に放った。
「そういえば、その目で俺の戦い方を、見るのは初めてだったか」
 口端から鮮血を滴らせ、ヴォーグは冷然と嗤う。
「底が見えないだけでなく、痛みを認識していないあたりが、かなり恐ろしくはある」
 元帥は苦痛に顔を歪めて、喘ぎながら言う。
「元帥閣下!」
 配下が叫んで、ヴォーグに狙いを定め、発砲する。
「ダメっ!」
 咄嗟に己の身体でヴォーグを庇うように飛び出したツォルは、腹を撃ち抜かれその場に倒れる。
「ツォル! ……もう貴様らに構っている、時間はない」
 狙いを定めたヴォーグはまず、配下の頭を撃ち抜く。
「さらばだ。君はきっと負の連鎖から逃れることは一生できない。ならば、愛とは無縁の、人生を歩むがいい」
「黙れ。俺からすべてを奪った人間に、それだけは、言われたくねぇよ」
 ヴォーグは元帥の頭を撃ち抜いた。
 周囲に敵がいないことを確認したヴォーグは、ツォルに駆け寄って抱き起こす。
「ツォル!」
「敵は……?」
「この部屋にいる者達は全員殺した」
「そう……」
 安堵したように笑うツォルを見て、ヴォーグはなんとも言えない気持ちになる。
「俺を好きになってくれて、愛がどんなものか、教えてくれてありがとう。お前は最高の女だよ。ツォル、俺の闇に巻き込んだだけでなく、こんな結末になってすまない……!」
 ヴォーグは鮮血を吐きながら、とても悔しそうに言葉を紡ぐ。
「ヴォーグとの時間は、宝物なんだ。誰にも奪えないしね。ねぇ、ヴォーグ。もう死んじゃうから、言わせてもらうけど。これから先もしも、また想い人があらわれたら、その人のことちゃんと見てあげて? こんな女のことを憶えていてもいい。でも、こんな女との愛は、ヴォーグにとって〝過去〟のことだから。ちゃんと〝現在(いま)〟を生きて?」