冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「なんで分かるんだよ。俺はそんな、辛そうに見えるか?」
「見えるっ!」
「即答かよ」
 くくくとヴォーグは、苦笑することしかできない。
「うん! なにがあったの? 相当なことがなきゃ、感情を麻痺させるなんて真似できないでしょ?」
 ヴォーグは過去を話して聞かせた。復讐心だけはひた隠しにして。
「俺は人じゃない。だから、闇には慣れている」
「なんか、腑に落ちた。そういうわけだったのね」
「それで、どう思った?」
 首をかしげて、ツォルを見下ろす。
「謎が解けた感じ。でも、あなたの前からいなくなりはしないし、これまで通りの関係を続けていくつもりよ?」
「……は?」
 ヴォーグは思わず、面食らった顔をする。
「そりゃあ、過去については衝撃的過ぎて、言葉にならないくらい。だけど、話してくれて嬉しいの。感情がうまくあらわせないのも、納得よ」
 ツォルは言いながら、ぎゅうっと抱きつく。
 ――離れたくない。
 そう言外に、告げているような気がした。
「大丈夫だ。俺はこの手を、お前を、手離したりはしない。なにがあっても」
 力強く抱きしめて囁くと、ツォルが笑う気配がした。
「その気持ちをあらわす、とっておきの言葉があるんだ」
「それは、なんだよ?」
 微笑みながら、ヴォーグが尋ねる。
「ヴォーグのこと、めいいっぱい、愛させて? それくらいあなたのことを想ってるの」
「俺も同じ気持ちだ。ツォル、愛している。俺の傍から、いなくならないでくれ」
 ヴォーグは囁くとツォルの頬に触れ、愛おしそうに撫でて、口づけを落とした。
 ツォルも愛おしそうに目を閉じた。
 二人の中に確かな感情が宿った瞬間だった。

 それからしばらく、軍の仕事でバタバタしていたヴォーグ。
 なんとかこなして帰ってこれたのは、最後にツォルに会ってからひと月が過ぎたころ。
 帰ろうと着替えたら、突然司令部に呼び出され、向かったヴォーグが目を剝く。
 そこにツォルがいたからだ。配下とともに。
 無表情で切り抜けつつ、元帥を睨みつける。
「なんのつもりだ?」
「それはこちらのセリフだよ? ヴォーグ准将。何故君がここへきたのか、わざわざ試験まで受けて潜り込んできたのか、ようやく分かったのだよ」
 元帥は、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「脅して吐かせたんだろ? おそらく彼女に話したことはすべて、貴様が知っているってことだろう?」
 ヴォーグは忌々しげに、顔を歪めて言い放つ。
「察しがよくて助かる。で、彼女にも死んだ副官にも、話していないことは?」
「ちっ。俺は最初から、復讐を遂げるために、潜り込んで、偽って騙してきたが。バレた以上仕方ねぇな」