冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 その足で向かったのは、ツォルのいる宿屋。
 ツォルのいる部屋は見当がついていたが、でも一応女将に一言断ってから、中に入る。
 そうっと部屋のドアを開けると、眠っているツォルがいた。
 朝になると面倒なので、今のうちにそうっとカーテンを引き、部屋の隅で待った。

 それから数時間後の朝。
 ツォルが目を開けたのを見た、ヴォーグが声をかける。
「起きたか。寝顔を眺めていたが、悪くない」
「え、ヴォーグ⁉ いつきてたの⁉」
 ツォルは素っ頓狂な声を、上げる。
「夜中にきた。そんなに顔を赤くしなくても」
 微笑ましいのか、目を細めるヴォーグ。
「起こしてくれれば、よかったじゃない! ああもう! 恥ずかしいっ!」
 ツォルは叫びながら、布団で顔を隠してしまう。
「こらこら、せっかくきたんだ。顔、見せてくれよ?」
 ヴォーグはそっと、ベッドに腰かけて告げる。
「ううう……」
 涙目になったツォルが、布団からそうっと顔を出す。
「突然きて悪かった。ここまで驚くと、思っていなかったんだ」
 ――なんだろう。もの凄く可愛いな。
 ヴォーグはあえて口にはせず、ツォルの涙を拭いながら、申しわけなさそうに言う。
「びっくりしただけだから。それで、なにしにきたの?」
 ツォルが身を起して、首をかしげる。
「俺の副官が、誰かに殺された。そいつは最期に、俺の友になりたいと言って、目の前で死んだ」
「っ! どんな感じの人だったの?」
 血の気のない顔をしたツォルを見ながら、ヴォーグは淡々と語る。
「俺のことをなんも知らないが故か、とにかく明るい奴でな。今思っても仕方ないが、もっと早く友として、接していれば、よかったのかもしれない」
「……そう。でも、最期に立ち会えたなら、よかったんじゃない?」
「そうだろうか?」
 ヴォーグは無表情で、聞き返す。
「うん。最期に友に、なれたんじゃないかな。ヴォーグ、大丈夫?」
「なにを言って……?」
 ヴォーグはそこまで言って、異変に気づく。
 視界が歪み、頬を一筋の涙が伝う。
「友達が、いなくなっちゃったんだもの。そうなるよね」
 ツォルは遠慮がちに、ヴォーグに抱きつく。
「ツォル……?」
(いた)んでいいの。落ち着くまでこうしてるから」
 震えた声でツォルが言う。
 ヴォーグは落ち着くまで、ツォルを抱きしめ続けた。
「ありがとう、ツォル」
 ヴォーグの力のない笑みを見たツォルが、再び胸に飛び込んでくる。
「ヴォーグのバカ! 大丈夫じゃないでしょ!」
 そんな彼女を優しく受け止めつつ、ヴォーグが言う。