冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「終わったぞ」
「お疲れさん、って怪我してる! 帰ったらすぐ軍医のところにいかなきゃ!」
 慌てるキューリに、ヴォーグは冷静に告げる。
「そこまでしなくてもいいぞ?」
「んなわけにいくか!」
 怒られてしまい、ヴォーグは苦笑することしかできない。

 軍に戻るや軍医の下で手当てを受け、ヴォーグはいつもの黒ずくめの格好に着替えた。
 帰ろうとした矢先、近くの軍の訓練場から発砲音が聞こえてきた。
 どうも嫌な予感がして、見にいったヴォーグが目にしたのは。
 腹を撃たれたキューリと、元帥の配下であった。
「お前は、新入りにあれこれ話しすぎた。我らのことを知られてはまずいというのに、その罪は死を(もっ)て償え」
 その一言で、俺の正体はバレているかもしれない。そして、俺さえいなければ、こんなことにならなかったかもしれないと、激しく悔やんだ。
 配下はそれ以上何も言わず、その場を立ち去った。

 配下の気配が完全に消えるのを待って、ヴォーグはキューリに駆け寄った。
「キューリ……!」
「大丈夫か……? おれはもう無理っぽいけど」
 キューリが力なく笑う。口端から鮮血を滴らせながら。
「俺のことなんて、どうでもいい! なにがあった⁉」
「どうやらおれは、ヴォーグにいろいろ話しすぎたらしくて。ただ、親しくなりたかっただけなのに。友になりたかっただけなんだ」
「こんなおれの友に……?」
 ヴォーグは衝撃的な発言に、耳を疑う。
「これは見せしめと、警告だ。おれを消せば丸く収まるだろう、と考えてるみたいだが、どうも嫌な感じがする。そうさ、ヴォーグとの日々は楽しかったんだ」
「俺は……」
 鮮血を吐きながら、キューリがはにかむ。
「もう、軍の中には、お前の味方と呼べる者はいなくなる。気をつけろ。きっと何かをする気なんだろうが、おれに話さないのは、きっと巻き込まないためなんだろ?」
「なんでそこまで、分かっているんだよ……」
 ヴォーグはつい、力のない笑みを浮かべることしかできない。
「言ったろ? おれは友になりたかったって。ほかの連中に気づかれたら面倒だから、もう行きな?」
「最期に。お前から得られた情報はなにひとつ、無駄にしない。そして、こんな俺の友としていてくれて、ありがとう」
 ヴォーグは低い声で言う。
「おう。じゃあな、ヴォーグ。生き延びろよ」
 それがキューリ・サンジカルの最期の言葉だった。
 ヴォーグは骸の前で敬礼をして、軍を後にした。