冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「そう。あの時の様子知ってるからかな? すっごい見違えたなーって思って」
 ツォルがどこか、嬉しそうに言う。
「俺がここに来てから、なにもかもに、嫌気が差していた時期でもあったんだよ」
 つい苦笑を浮かべて言う。
「確かに。あんなに危なっかしい人は、初めて見たかも」
 くすくすとツォルが笑う。
「危なっかしいのか、俺……」
 ついつい苦笑を浮かべることしか、できないヴォーグ。
「せっかくだから、言っちゃおうかな」
「なにを?」
 ヴォーグが首をかしげる。
「多分、わたしは、あなたのことが好き」
「はあ⁉」
 思わず素っ頓狂な声を上げて、ヴォーグはツォルを見つめたまま固まる。
「おーい? ちょっと? 戻っておいでー?」
「ん?」
 くすくすと笑ったツォルの言葉で、我に返るヴォーグ。
「言ってるこっちも恥ずかしいんだから、変なところで固まらないで」
 告げるツォルは、頬が上気している。
「なあ、本気で言っているのか?」
 ヴォーグはつい、探るような物言いをしてしまう。
「あのね! そりゃそうでしょう!」
 かえってツォルを、怒らせてしまった。
「悪い。確認しないといられなかったんだ。どうしてその気持ちになったのか、聞かせてくれよ」
 素直にヴォーグはそんな言葉を口にする。
「理由? んー、あの身体を見てからかな。きっかけは。だってあんなに傷だらけで血も凄いのに、痛そうな顔しないでしょ?」
「……そうだな」
 ヴォーグは当時を思い出す。
「詳しいことは分からないけど、それってあまりにも哀しいことだから。こんなに強いのに、ボロボロの人は、初めて見たのよ。それでずっと包帯を換えながら、気づいたら恋してたって感じかな。この人の支えになりたい、もっと知りたいって」
 ツォルは、一気に話した。
「ならば先に、言っておく。俺は好きになるほどの価値のない男だし、過去なんてロクなもんじゃねぇ。生半可な気持ちで、言ってるわけではないのは、分かっている。だが、俺は闇に塗れている。この両手は他人の命を奪うためにあるもので、誰かを守るための手ではない。ツォル、俺の抱えている闇は、想像以上に深いし残酷だぞ。それを丸ごと、受け()れる気はあるか?」
 ヴォーグは低い声で、ツォルを睨む。
「あるっ! だって独りにしておいたら、いなくなっちゃいそう!」
 ツォルは即答する。
 ――即答かよ。
 ヴォーグは一瞬言葉を失いつつも、咳払いをする。
「んん。……少し、お互い頭を冷やす時間を、作ろう。冷静になればまた変わるかもしれん。明日の夕方、またくる」
 うなずいたツォルを一瞥して、ヴォーグは足早に立ち去った。