冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「先に言っておくが」
「はっ! 准将殿!」
「敬語と殿づけは、他の目がないときはなし。じゃないと俺も居心地が悪い」
「おれは、キューリ・サンジカル。そういうことなら。いやあ、試験見させてもらったけど、凄いや! 准将ってのも、うなずける!」
 キューリはニヤッと笑みを浮かべて、明るく言う。
「俺はヴォーグ。本当に、個の力が有効というかなんというか。俺はてっきり、下っ端からのスタートだとばかり、思っていたが」
 ヴォーグは頭を掻く。
「え? あんなに力持ってるのに、下っ端からなんてありえないだろ!」
 ハハハッとキューリが笑う。
「そういうもんか?」
 軍とはよく分からない、と思ったヴォーグが顔をしかめる。
「ここじゃあ、落ち着かないから、あんたの部屋にいこうぜ」
「部屋?」
「正しくは、執務室だけどなー」
 手招きをしてくるキューリに、ヴォーグは黙ってついていく。

「ここだよ。さすが准将サマだな」
 ズカズカとキューリが、足を踏み入れる。
 中には大きな机が、でんと置かれていた。
「こんな机、見たことがないんだが」
「まあ、座れって」
 キューリが言いながら、ヴォーグを座らせ、ドアを閉めて戻ってくる。
「さすがに似合うなあ」
 キューリはニヤッと笑う。
「で、話の続きは?」
 不満げにヴォーグが告げると、キューリが居住まいを正した。
「軍の中では、あんたみたいに、大抜擢された奴はいなくて。わりと使えない奴らばっかりだったって、聞いてるけどな」
「使えない奴らって、結局どうなるんだ?」
 低い声でヴォーグが尋ねる。
「軍服返却して、一般人に戻るだけだろうな。多分?」
 よく分かんないけどと、キューリが付け足す。
 ――まあ、使えそうな奴ではあるが、俺の復讐については触れない方が無難だろうな。俺はここを潰しにきたのであって、仲間ごっこをするわけじゃねぇ。
 ヴォーグはそんなことを思いながら、キューリとの会話を聞いていた。

 それからしばらくして、キューリと離れたヴォーグは、軍服を着たまま街を歩いていた。
「もしかして、ヴォーグ、さん?」
 夕方ごろに駆け寄ってきたのは、一人の女。
「ああ。そうだが?」
 首をかしげながら聞き返すと、女の顔がパッと明るくなる。
「やっぱり!」
「まさか、ツォルか?」
 その言葉にツォルは、こくこくとうなずく。
「軍人さんになってたのね。驚いちゃった」
 ふふふとツォルが微笑む。
「ちょっと、事情があって」
 中途半端な言い方しかできない自分を歯痒く思いながら、ヴォーグが苦笑を浮かべる。