冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 そんな彼の耳にドアを叩く音が聞こえてくる。
「誰だ?」
 首だけ動かして、ドアの方を睨みつける。
「包帯を換えにきたの、入ってもいい?」
 女の声を聞きながら、ヴォーグは低い声で応じる。
「……ああ」
「待って! そんな急に動いちゃダメ!」
 女が止めて、そうっと優しく上半身を起こすと、ヴォーグは痛みに顔をしかめる。
「これくらい……」
「大怪我なんだから、じっとして」
 女はヴォーグの言葉を遮り、キッと睨んでくる。黒のロングストレートがよく似合う女だった。
 ヴォーグは黙る。
 着ていたワイシャツを脱ぐと、引き締まった身体があらわになる。
「凄い身体。本当にあなたは戦う人なんだね。こんなに、こんなに。ボロボロになって」
 上半身の包帯を換えながら、女が言う。
「痛みにはもう慣れた」
 ヴォーグは、低い声で言い放つ。
「口ではなんとでも言えるでしょうよ。でも、痛いんじゃないの……?」
「なあ、名前は?」
「ツォル」
「あまり俺に深入りすると、ロクなことにならないから、やめておけ」
 ヴォーグはそれだけ言うと、ドアを指さした。
「また、くるから」
 ヴォーグの無表情な顔を見つめてツォルが呟いた。

 ヴォーグの怪我が治るまで大体一月ほどかかった。
 礼として金貨十枚を支払うと、ヴォーグはツォルに何も言わず、立ち去った。

 その後の身の振り方を、どうしようかさんざん考えていたヴォーグは、この国の軍隊に所属するための実技試験を受けることに。
 あっさりと試験をパスして見せ、試験官らは驚きの表情を浮かべていた。そんな表情を睨みつけながら、ヴォーグはその場を後にする。
 数日後、入隊との連絡を受けたヴォーグは、支給された軍服を身に纏い、軍の総司令部に呼ばれる。
 そこにいたのは、この国の実権を握っているとされる、軍の最高位の元帥だった。
「ヴォーグ君と言ったかね?」
「はい」
 ――いずれ、俺が殺す相手か。
 元帥は五十歳くらいに見える男性で、普段は温厚そうだが、目が鋭いので戦いになると、化けの皮が剥がれるかもしれない。
「ここは、簡単に言うと個の力の強さが物を言う。君は非常に高い戦闘能力を、持っている。よって、准将に就くことを許す」
「はっ!」
「これから励むように。分からないことは副官となる彼に聞いてくれ」
 そこに一人の男が入ってくる。見た目はヴォーグと同い年に見えた。
「サンジカル中尉、参りました!」
「ヴォーグ准将のことを頼むぞ、中尉」
「は、元帥閣下!」
 満足そうにうなずいた元帥は、司令部を出ていった。