冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 ヴォーグは渇きと腹が満ちたのを感じたので、森を出るべく、フードを目深に被って、手袋を嵌め直した。
 
 そのころ、優月はというと。
 晒し木綿の巻かれた両足を一瞥し、溜息を零す。
 治るのに時はかかると言われていたが、まさかここまでとは思っていなかった。
 ――そこまで酷い怪我をしてた、ってことだけれど。こんなの掠り傷としか、思ってなかったわ。でもヴォーグが助けてくれたから、あたしの地獄が〝過去〟になった。それについてはきちんと、お礼を言わなくちゃ。
 あらためてそんなことを思いながら、ヴォーグの帰りを待つ優月だった。

 しばらくした明け方、部屋のドアを叩く音が聞こえてきた。
 優月が応じると、見慣れた人影が入ってくる。
「ヴォーグ?」
「帰ったぞ」
 優月は言葉を詰まらせる。
 口の周りが鮮血に塗れ、黒い服を着ているので分かりにくいが、血で(ぬめ)っているのが、なんとなく分かる。
 本当に人ではないのね、と優月はあらためて痛感する。
「おかえりなさい」
 優月はその姿に驚きはした。けれど、普段通りの声を出そうと努めた。
「落ち着いて話をする前に、着替えてくる」
 その言葉にうなずくと、ヴォーグはドアを開けたまま自室へ向かった。

 
 しばらくすると、着替えをすませたヴォーグが戻ってくる。
「大分かかったみたいだけれど、渇きは癒えたのよね?」
「なんとかな」
 ヴォーグはドアに背を預けたまま、動こうとしない。
 そんな様子を不思議に思いつつ、優月は声を出す。
「もしかして、さっきの姿を見せたから、あたしが怖がってると思ってる?」
「なんで分かるんだよ」
 ヴォーグはその通りだったために、ついムカッとしてしまう。
「怖くないよ? びっくりしただけだから、大丈夫」
 ――なにが大丈夫なのか、さっぱり分からん。
 ヴォーグはその言葉を受けても、動かない。
「話せればいいだろ?」
「まあ、そうだね」
 優月はうなずく。
「あの姿を見たのに、怖くないのには、驚いたぞ」
 ヴォーグが呟く。まるで怖がられるのが、当然と言わんばかりに。
「あの姿も、ヴォーグの一面だと思っただけ。いろんな一面を、持ってるものでしょう?」
「それはそうだがな……」
 ヴォーグは渋い顔をする。
「渇きが癒えたのならよかったわ。もしよければ、なんだけど」
「うん?」
 ヴォーグが首をかしげる。
「昔話、聞きたいな」
「まだ途中だったな。話してやるよ」
 ヴォーグは遠い目をして、語り始めた。

 * * *
 
 医者に絶対安静と言われたヴォーグは、日光を遮った暗い部屋のベッドで横になっていた。