冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 それから数日経ったある日、ヴォーグと優月は坂埜の診療所を訪れる。
 優月から先に、診てもらうことに。
「だいぶ綺麗になってきた。歩けるようになるまで、もうちょっとかな。一応晒し木綿を巻いておくね」
 とびきり優しい笑顔に、曖昧に笑うことしかできない優月。
「あの……」
「なにかな?」
「感じたままに、心のままに。少し我儘になって生きた方がいいの……?」
 思ったことを、そのまま口にする。
「私から見れば、君達は少し我儘くらいが、ちょうどいいと思うなぁ」
「え……?」
 優月はきょとんとする。
「君達二人は、感情を抑えすぎてるように見えるよ? ヴォーグは仕方ないとして。君はもうちょっと、素直になっていいんだよ?」
「感情的になるの、正直に言って、怖い」
「どうして?」
 坂埜の問いに、面食らった。
「それは……。感情的になったら、ヴォーグを傷つけるんじゃないかって。だから、ヴォーグの昔話を聞いても、大っぴらに泣かないようにした」
 優月はぽつぽつと、言葉にする。
「ふむ。その心配は要らないかもね」
「え?」
 優月がきょとんとする。
「多分だけど。感情を表に出しても、ヴォーグは怒らないと思うな。戸惑いはするかもだね。本人からなにか、言われたわけじゃないんでしょ?」
「直接それについて、言われてはないかな」
「じゃあさ、もし機会があればだけど。感情的になるような場面があったら、思いっきり表に出してみなよ? その反応でどうするか決めてもいいんじゃない?」
 坂埜は悪戯っぽく笑う。
「……考えてみる」
 優月はそれしか、口にできなかった。

 次にヴォーグが呼ばれ、あっさりと手当てが済む。
 優月は泣かないように、ヴォーグの方を見ないようにした。
 札一枚を払ったヴォーグは、優月を抱き上げる。
「また、くるね」
 優月が告げると、坂埜は笑顔を見せた。

「寄りたいところがある。一緒にきてくれるか?」
 ヴォーグが足を止めて、優月に視線を向ける。
「いいよ」
 あっさりと了承した優月に、ヴォーグはほんの少し笑みを浮かべる。
「ありがとうな」
 ううん、と優月は苦笑した。
 
 二人が他愛のない話をしていると、目の前に鍛冶屋が見えてきた。
「ここ?」
「ああ。俺だが、いるか?」
「あー、お前さんか。一人じゃないのが珍しい」
 苦笑しながら、七十歳くらいの男が表に出てきた。
「だろうな。気が向いたから、連れてきた」
「わしゃ、光圀(みつくに)
「優月、です」
 互いに名乗ると、光圀が笑い出す。
「敬語は使わんでいい! ガハハ!」