冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「それで?」
「衝撃的なことの連続で、俺は〝なにか〟を失ったのではないか、と思うようになった」
「失うものがなんであれ、辛いことに変わりはないよね」
 優月が相槌を打つ。
「俺はきっと、あの出来事がきっかけで、自分の感情を捨てた。冷静であることが重要で、それ以外は要らないと、判断したんだろうよ」
 ヴォーグは自嘲する。
「まるで消耗品みたいに、言わないで。大事なモノを、一気に捨てちゃったのね」
 優月がキッと睨む。
「まあな。俺はそこまでしないと生きられないくらい、不器用な男なんだろうさ」
 困ったものだと、ヴォーグは力なく笑う。
 その表情を見た優月は、思わずその引き締まった身体に手をかけて、静かに抱きしめる。
「話してくれて、ありがとう。辛いときは泣いたっていいのよ」
「なにを……?」
 優月に抱きしめられたヴォーグは、戸惑ってしまう。
「これまであたしよりも長く生きてきて、心が引き裂かれるような別れを何度も経験したんでしょう?」
「ああ……。そうだな」
 ヴォーグはうなずく。
「あなたは、あたしとおんなじ。独りで、頑張りすぎちゃったの」
「そうかも、しれない。でもそれは、俺が望んでいたことでもある」
 低い声でヴォーグが告げる。
「どうして、望んでいたの?」
「俺の闇に、誰も巻き込みたくなかった。独りでいれば、俺だけの問題にできるからだ」
 ヴォーグは言いながら、視界が涙で歪むのを感じ取る。
「ホント、優しいね。でも、ほんのちょっとだけ、我(まま)になってもいいと思うなあ」
 その言葉が、温かさが、身に沁みたヴォーグが震えた声を出す。
「なあ、抱きしめても、いいか? 泣いても、いいだろうか……?」
「いいから、こうしてるんだよ?」
 優月はこれ以上ないほど、優しい目でヴォーグを見つめる。
「こんな俺だから! 誰も守れないし、目の前で最期の言葉を聞くことしか、できない……! 人間が長生きではないことなど、分かっている。別れは人より多いだろうと思っていた。けれど! 死という、どうしようもない別れは、幾度経験しても、慣れないんだ。後悔が身を焼く!」
 ヴォーグは言葉を続けようと、息を吸う。
「ゆっくりでいいよ。言いたいこと、全部言って?」
「何故、何故? 俺が大事にしたい人は皆、不幸になって死んでいく! 俺なんぞに関わらなければ、もっと長く、生きられたかもしれないのに! どうして、あんなにも満ち足りた表情で、死んでいくんだよ!」
「推測でしかないけれど。みんな、あなたのことを、想ってたんじゃないのかな。だから、満ち足りた表情だったんじゃないの?」
 優月の言葉に、ヴォーグは首をかしげる。