冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

「この町を滅ぼしたからって、貴様を殺したからって、恩人は戻ってこねぇ。あの人はもう、死んでしまった。俺の気が晴れるわけねぇ。だが、恨みはぶつけないとなぁ?」
 血だらけの吸血鬼が、美しくも残虐な笑みを浮かべているのだ。誰だって血の気が引く。
「謝るからっ! 頼むから、命だけはっ!」
「謝罪、命乞いか。そんなもんで赦せって? ふざけるな!」
 怒号が空気を震わせ、ヴォーグは引き金を引く。
「ぎゃあああっ!」
 右肩を撃たれただけで、痛みに叫び始めた。
「貴様のようなクズが指揮官か。哀れとしか言いようがねぇ」
「この町は、自分のものだ! いいように使ってなにが悪い⁉」
「貴様は暴君だ。どう見てもやりすぎなんだよ。ああ、ったく。もう目(ざわ)りだ」
 ヴォーグは頭を撃ち抜いて、骸を盛大に蹴り飛ばした。

 「……ふう」
 数時間で町人全員を、殺し尽くした。
 横たえていたミューリの骸まで戻って、地面の土を手で掘って、骸を埋葬。形見として愛用していた煙管をもらった。
 土で覆い隠すと墓標の代わりにリヴォルバー二挺を突き立てて、手を合わせた。
 頬から一筋の涙が伝ったが、ヴォーグは無表情でそれを拭う。
 ――どうか、安らかに。
 その言葉を別れの言葉として心の中で告げると、武器商人の許へ向かった。

 静かすぎるその店は激しく荒らされ、武器という武器はすべて無くなっていた。
 ザノを探そうとして、足許になにか転がっているのに気づいて、視線を落とす。
 そこには、心臓を刺されているザノの姿があった。
 ザノも店の近くに土葬をして、落ちていたボロボロの剣を墓標代わりにする。
「こんなものしか、ない。ごめんな、向こうでミューリと語らってくれ」
 それだけ告げると、ヴォーグは廃墟と化した町を出た。

 ヴォーグはこの町で大事なモノに巡り合い、大事にしていこうと決めた矢先に、すべてを無慈悲に奪われた。
 その憎悪の炎は町を消したからといって、晴れるモノではない。
 ふつふつと滾るその念を、心の中に押し隠して、生きていくのだろうな、とヴォーグは思った。

 * * *
 
「町を破壊し尽くした俺は、隣の大きな町に移動した。だが、怪我を治す気力もなく、適当な宿に身を寄せた。そこの主が、世話焼きでな。嫌がる俺を無視して腕のいい医者を手配して、必要ないと言ったのに、一切耳も貸さず、手当てをしていった」
 ヴォーグは遠い目をして、当時を振り返る。
「なにもかもを奪われて、生きる気力を無くすのは分かるよ。あたしもそうだったから」
 優月も過去を、思い出して言う。
「うん。俺は怪我を治しながら、考えることを放棄した。一回頭の中を整理したかったのもある」