冷酷無情な射手の吸血鬼に救われた、人として生きることを諦めた娘

 ヴォーグにお姫様抱っこをされたままの優月は、いつも遠くから見ていた洋館の前にいた。
「近くで見るのは初めてだけど」
 優月は言いながら、息を呑む。
「まあ、さして広くはないぞ。悪いが、そこの鍵にこれを差し込んでくれ」
 小さな黒い鍵を、取り出したヴォーグが言う。
 コートの中から両手を出して、鍵を受け取り、カチリと音がするまで回す。
 入口のドアをヴォーグは足で開ける。
 驚きを隠せない優月をそのままにして、謎に包まれた洋館の中へ。
 
 ヴォーグは足でドアを閉めて、優月に鍵をかけさせると、なにごともなかったかのように、平然と歩き出す。
 もう日が落ちていたので、中は真っ暗でなにも見えない。
 身を固くしたのが分かったヴォーグは、足早に廊下を抜け、自室の隣の部屋のドアを足で開ける。
 ベッドとテーブルと椅子があるのを確認し、いったん優月をベッドに寝かす。
 きょとんとしているのは、雰囲気で分かった。
 サイドテーブルに置かれていた燭台に、火打石で火を点けたヴォーグは、燭台を持ち上げて、ベッドの傍をひとまわり。
「あたしは床でもいいけど」
「床では寝させない」
「むう」
 優月はむくれることしかできない。
「水を持ってこよう。俺がいないからって、歩いてみようとするなよ」
 きっちり釘を刺すとヴォーグは明かりを持たずに、部屋を出ていった。
「これが洋館の中なんだ……。っ……」
 薬が効いているのか、両足がずきんと痛む。
 ベッドから降りずにじっとしていると、ヴォーグが戻ってくる。
「ほら。化膿止めの薬は、持っているな?」
 その手には、水の入ったコップと、水が入っているであろう細口の瓶が握られていた。
 初めて見るものばかりで、優月はきょとんとしてしまう。
 優月は懐に入れていた粉薬を取り出す。
 粉薬を口に流し入れると、コップを握らされる。
 ヴォーグが動きで、口をつけて飲むように指示。
 その通りに飲んだ優月は、目をぱちくりさせる。
「薬は苦いけれど、美味しい水……」
「水に感動するなよ」
 ヴォーグはベッドに腰かけ、苦笑を浮かべる。
「あ! ずっと運んでもらってたけど、その、重くなかった……?」
「軽いから。そんなこと心配するな」
 ヴォーグは目を細める。
「うう……。それと、助けてくれて、ありがとうっ! ごめんなさい、ずっと言えてなくて……!」
 優月が慌てて言う。
「俺が救い出したかった、というだけだ。ひとつ、聞いてもいいか?」
「なに……?」
 優月は身を強張らせる。
「俺には異国の血が流れている。白い目で見られたことも幾度もある。この見た目をどう思うのか、気になってな。なに、素直な気持ちを言えばいい」
 ヴォーグは肩越しに、優月を見つめる。
 チャコールグレーの髪と、吸い込まれそうなほど美しい蘇芳色の目。
 顔立ちは恐ろしいくらいに整っており、歌舞伎の二枚目かと思うくらいだ。